トップオピニオンインタビュー富山県朝日町「花咲かじいさん」の町おこし―(有)チュリストやまざき取締役 山崎 久夫氏に聞く

富山県朝日町「花咲かじいさん」の町おこし―(有)チュリストやまざき取締役 山崎 久夫氏に聞く

歳月かけ「春の四重奏」実現 残雪と桜、菜の花、チューリップ

やまざき・ひさお 昭和17年、朝日町生まれ。入善高校を卒業後、祖父が始めた家業の農家を継ぐ。チューリップの球根栽培、コシヒカリ、古代米、冬の切り花宅配などを扱う傍ら、景観づくりを通じて、地元の町おこしに取り組む。令和3年度農業農村整備優良地区コンクール(中山間地域等振興部門)で、地元の「農事組合法人ふながわ」と「有限会社チュリストやまざき」(朝日町舟川新地区)が、最高賞の農林水産大臣賞を受けるなどこれまで多数、受賞。

「他にない景観」7万人訪問

新潟県と県境を接する人口約1万1000人の富山県下新川郡朝日町に、4月だけで全国から7万人の観光客が集まる。朝日岳・白馬岳をはじめとするアルプス連峰の残雪の白、その手前に桜のピンク、チューリップの赤・オレンジ、菜の花の黄色などが奏でる「春の四重奏」を見るのが目当てだ。この景観創造の仕掛人、(有)チュリストやまざきの山崎久夫氏(80)に聞いた。(聞き手・青島孝志)

 ――チューリップの球根栽培はいつから。

私が高校3年の時からです。周囲の農家ではすでにチューリップの球根栽培をしており、その頃がチューリップ栽培の最盛期でした。

 ――会社の名前、「チュリストやまざき」がおしゃれです。

チューリップの球根栽培と切り花に力を入れてやろうと考えていた約20年前のことです。私の農家に出入りしていた広告代理店の方が、『会社名を10個ほど考えてきたよ』と、示された中にあったのが、『チュリストやまざき』でした。ピアニスト、アルピニストなどという言葉をもじって、チューリップを育てる人、という造語が私の心に響きました。これにちなんだ名刺や封筒、包装など独自のデザインで作成。業者さんからは、広告代理店にいくら払ったの、と心配されました。他から『コメを扱うので、コメリストという言葉を使いたい』などの申し出があると『どうぞ』と。

 ――「春の四重奏」演出のきっかけは。

きっかけは、京都在住の方でした。その方が、花を摘んでいる写真や周辺の風景写真を私に下さいました。そこに朝日岳の残雪、桜のピンクの組み合わせがきれいで、さらに同じ時期にチューリップや菜の花を咲かせたら面白いだろうな、と意識するようになりました。今から30年ほど前ですね。

 ――見応えのある「春の四重奏」となるのに時間がかかったことでしょう。

十数年ですね。桜の前の畑や田んぼはかつて、他の方の持ち物でした。それが、農業をやめるので農地を預けたいという人が出てくると、私の方で預かるようになりました。

同時に、桜と同じ時期に咲く早咲きのチューリップの品種探しをしました。産地として有名な砺波市に行って品種を調査。今では、チューリップが1・6ヘクタール、菜の花が3ヘクタール。今年のチューリップの品種としては、19品種60万本ほどです。こうして『あさひ舟川・春の四重奏』が4月初めから2週間開催されています。

 ――チューリップの栽培方法は。

10月10日ごろから月内に終えるように、機械で球根を落としていきます。それに、人の手で、空いている場所に球根を補充します。

 ――人口約1万1000人の朝日町に、今年はどれほどの観光客が訪れたのですか。

7万人ですね。コロナ禍にもかかわらず年々、観光客が増えて、町で最大のイベントになっていますね。うれしい限りです。

 ――町はどのようなサポートを。

新しいチューリップの原種を入れるときに助成金を出してもらったり、ここ2年ほどは補助金が出ています。

 ――チューリップ農家がかつて30軒ほどあったのが、現在は山崎さんだけです。

安いオランダ産に押されて、取扱高はかつての4分の1に減りました。栽培に関わる人件費や肥料などは上がる一方、肝心の球根の値段は上がらない。富山県内のチューリップ農家は最盛期で1800軒ほどあったが、現在は60軒前後。

 ――他に稲作アートなどの取り組みもしています。

05年から20アール、4種類の古代米を栽培し、数年を経て30アール2枚の時期、50アール1枚と変わり、品種も8、9品種使うようになりました。町観光協会や農協らの協力を得て地元の小学生の親子150人ほどで、今年も5月下旬に行いました。植えて2週間で形が見えてきて9月までが鑑賞時期です。

今は、秋の彼岸花にも力を入れています。植えだして7年。これは埼玉県での光景に感動したからです。ロータリークラブや地元町内会の応援もあって、これから本格的にやりたいですね。反省点もあります。彼岸花をきれいに植えたのですが、面白みがない。赤は咲きますが、黄色がなかなか咲かない。試行錯誤の連続です。

 ――新しい挑戦の中で苦労したことは。

富山県内でチューリップといえば、砺波市のチューリップフェアと入善町のフラワーロードが有名です。ですが、砺波には、雪の山がありません。他のライバルにないものが朝日町の山並みと桜並木です。60年の歳月がかかった桜並木は他がすぐにまねることはできません。チューリップの球根を植える前年は、菜の花を植えています。土の管理をしながら、四重奏でつくる光景が皆さんに喜んでいただけるよう、工夫しています。

 ――これから、どんな風景を演出していこうと考えていますか。

春の四重奏、その後、初夏から秋にかけて田んぼアート、彼岸花と続きます。あとは、こちらの畦(あぜ)は石と砂で出来ていますが、雨で崩れないよう、普通のものよりも葉の大きい芝を植えています。この手入れをやれば、もっと美しくなるだろうと考えています。

あとは、冬です。実はこの冬、2カ月ほど白鳥が数十羽、滞在していました。これを冬の風物詩にできないか、と考えています。生き物が相手で、さてどうなるか。(笑)

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