フィンランド・スウェーデンNATO加盟問題【ウクライナ危機 識者に聞く】

アジア経済研究所研究員 今井宏平氏

米ホワイトハウスで記者会見するバイデン米大統領とスウェーデンの アンデション首相とフィンランドのニーニスト大統領=5月19日(UPI)

武器禁輸解除が落とし所存在感増す“仲介役”トルコ

――トルコが停戦交渉などの仲介者として浮上した背景は。

トルコにはウクライナ危機が起きた黒海地域の大国の一つという強い自負がある。また、ウクライナ危機以前、ウクライナともロシアとも関係は比較的良好だった。NATO(北大西洋条約機構)加盟国という立場から、基本的には欧米、ウクライナ寄りの立場である。一方でロシアの天然ガスの主要な輸入国であり、原発の開発などもロシアの協力で行っている。経済制裁に参加していないように、ロシアを完全に国際社会から締め出すことにトルコは否定的だ。

いまい・こうへい 1981年長野県生まれ。中央大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。トルコのビルケント大学などに留学。2016年より日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員。著書に『中東秩序をめぐる現代トルコ外交』(ミネルヴァ書房)『トルコ現代史』(中公新書)など。

――経済的には関係が深いが、軍事的には敵対的ということか。

一概にそうとは言いにくい。確かにリビアやシリアの内戦でもトルコとロシアは敵対している。しかし、近年トルコはS―400防空ミサイルシステムをロシアから購入している。利害は一致しないが地域の安定や内戦の交渉に必要不可欠な国との認識はあると思う。一方ロシアから見れば、NATO加盟国で一番ロシア寄りの対応を期待できるのはトルコとの認識はあると思う。

――エルドアン大統領が仲介に積極的な理由は。

積極的に仲介に乗り出すことで、国際社会にその存在感をアピールできる。ただトルコとしても仲介せざるを得ない部分もある。先ほど触れたように、トルコはウクライナとロシアともに関係が深いので、明確にどちらかを支持する立場は採りづらい。トルコにとっては、仲介が最良の外交的選択と考えられる。

――トルコの仲介で停戦交渉など何らかの成果を挙げることはできるのか。

なかなか難しいところだが、もしプーチン大統領とゼレンスキー大統領が会談を行うとなった場合、場所としてはトルコが一番、適切だ。解決はしなくても、一定の成果は上げられるのではないか。

――フィンランドとスウェーデンのNATO加盟にエルドアン大統領は強い反対姿勢を崩していない。それもあって、最近の世論調査で支持率も微増したと伝えられる。

トルコがテロ組織とみなすPKK(クルド労働者党)関係者がスウェーデンに居住しているとトルコ政府は主張しており、それが、反対の主要な理由である。トルコ国民は外交より内政が重要で、約40年にわたるトルコ軍とPKKの抗争で双方合わせてこれまで約4万人が亡くなっており、この問題はトルコ国民にとって大変関心の高いテーマだ。

――トルコの賛成を得るために西側は何をすべきか。

恐らく三つの点が考えられる。一つは、スウェーデンに居住するPKKに関係するクルド人のトルコへの引き渡しである。しかし、スウェーデンなど北欧諸国は人権大国として知られているので、この選択肢は考えにくい。二つ目はトルコは2019年に対PKK作戦のために北シリアに介入したが、それに対しスウェーデン、フィンランド、英国、ドイツなどがトルコに対して武器禁輸措置を実施した。この武器禁輸措置を撤回することをエルドアン大統領が求めている。三つ目はトルコがロシアからS―400を買ったため、米国が最新鋭ステルス戦闘機F35の開発からトルコを外し、また、F16の売却を拒否した。これらの措置を見直すことをトルコは米国に求めている。このうち、2番目の武器禁輸の撤回が一番可能性が高いのではないか。

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