
――北朝鮮が日本人拉致を始めたきっかけは。
最初に金正日が命じたのではなく、1970年代初めに対外連絡部が提案し、作戦部と共同で進めた。組織指導部は一切知らなかった。
――拉致の目的は何だったのか。
多目的だ。第一に工作員が日本人として活動できるように日本語を習得させるため。第二に身分偽造。拉致した者の名義を使って日本人に成りすまして韓国に侵入したりするため。傷つけようとして連れてきたわけではない。南朝鮮解放という国家目的のため連れてきた。
――日本人拉致に直接関わったか。
私が勤務し始める以前のことなので関与していないが、拉致された人がどう管理されているかは詳細に知っている。
――どのような待遇か。
党で食べる物、着る物、使う物に不自由しないよう配慮してあげた。その子供たちにもよくしてあげている。北朝鮮では極めて上流の生活だ。一部で言われているような食べる物に困ったり、貧しい生活を強いられているようなことはない。一方で北朝鮮にとって韓国は恩讐であり、敵対視しているので、韓国から連れてきた人には日本人のようによくしてあげていない。
――管理した機関、部署はどこか。
統一戦線部。そのどこの部署がどのように管理したかもよく知っている。
――みなどこに住んでいるのか。外出はできるのか。
平壌にいる。子供や孫も同じ地域に。外出は自由にはできない。集団で車で移動する。ただ、拉致してきたので外部の人との接触はできない。
――子供たちは学校に通っているのか。
仮名で通っている。行き帰りは車で送り迎えしている。
――その子供たちの将来はどうなるのか。
その時になってみなければ分からないが、党が管理してあげる。重要な機関には入れないにせよ、衣食住の面倒は見るだろう。
――日本に帰りたがっているのではないか。
もう50年近く北朝鮮で暮らし、そこで子供ももうけた。考え方も大きく変わった。資本主義の優越性より不正腐敗などその弊害を教え込まれた。北朝鮮では衣食住が無料だが、今から日本に行っても、どうやって生きていけるだろうかと不安を抱いている。
――平壌に住む日本人拉致被害者たちは、帰国した5人の被害者について知っているのか。
もちろん知っているが、北朝鮮に戻ってくるべきだったのを日本が戻らせなかったと宣伝、教育しているので、日本は酷(ひど)い国だと認識しているだろう。今から日本に戻って、そこの生活に慣れるには長い年月が必要だ。
――北朝鮮は何人もの被害者が死亡したと発表した。
あれは全て嘘(うそ)だ。墓地が洪水で流されたり、被害者が精神病院に入院したというのも全てデタラメ。北朝鮮は日本に嘘ばかりついてきた。それを最初鵜呑(うの)みにしかけた日本も良くない。
――横田めぐみさんを含む8人の被害者が死亡したと発表し、日本の世論は猛反発した。
死亡したと言っても生きており、あるものをないと言うのが政治の世界。もっと大きいものを見据えて日本は動かないと。
――めぐみさんは生きているのか。
詳細は明かせないが、みなが驚くような話もある。
――日本政府にとって拉致被害者全員の帰国は最優先課題。北朝鮮は環境や条件が整えば応じるか。
日本は拉致問題解決で大きな失敗をした。日本に帰国した被害者5人を北朝鮮になぜ戻さなかったのか。北朝鮮に戻すという約束を日本は破った。
当初、金正日は拉致問題をどうしたらいいか呉克烈(作戦部部長)に尋ね、呉克烈から私に(提案を出すよう)指示が下された。拉致を認め、被害者を日本に(一時)帰国させるという案を出したら、金正日が「これでよし」と言った。私も金正日も日本国民が喜ぶと思ったが、逆に抗議され、5人は北朝鮮に戻らず、金正日は大恥をかいた。日本との間に大きな溝ができた。
5人を(一時)帰国させたのは、韓国にたとえるなら離散家族再会の門を開いたようなものだ。何十年も解決できなかった拉致問題の解決の糸口をつかんだのだから、日本はもっと大きな目標を見据えて肯定的に捉えるべきだった。
――拉致問題は解決済みというのが北朝鮮の公式的立場。今後、進展の可能性は。
主要機関で日本との関係正常化に向けて動くのか否かの結論が出なければならない。安倍元首相も岸田首相も日本人拉致問題解決のため前提条件なしに金正恩と会談すると言うが、(北朝鮮に)行っても絶対に解決しない。国交正常化などを含む関係改善のための会談の中に拉致問題を含めなければだめだ。
――金正恩総書記は日本人拉致問題にどう向き合うつもりなのか知りたい。
北朝鮮は経済優先ではなく政治優先の国。世襲体制維持にプラスになることが金正恩の実利だ。それに見合うかどうかだけを考えれば分かる。