誇り高き「消防」 火を消すだけに留まらないその役割とは。

災害危機管理アドバイザー 加藤孝一さんに聞く

火災や災害の発生時に、現場に駆けつけて救命活動や消火活動を行うのが消防官だ。毎年のように大規模な災害が国内外で続いており、人々の防災意識が高まっているものの、災害と戦う消防官の姿については知られていないことも多い。 元消防官で現在、災害危機管理アドバイザーとして活動している加藤孝一さんに、消防官としての信念や国際的な視点で見た消防の果たすべき役割について話を聞いた。
(聞き手・石井孝秀)
かとう・こういち
秋田県出身、法政大学法学部卒業、筑波大学大学院修士課程修了。23歳から59歳まで36年間、東京消防庁に勤務。同庁の海外研修生として英国とドイツに派遣。同庁広報課報道係で報道業務担当。各消防署では主に予防行政や地域防災を担当。消防署の副署長、警防課長、予防課長として勤務。現在は消防・防災に関する講習、講演、執筆で活動中。著書に「災害エッセイ ある消防官の見聞録」(近代消防社)。

「災害に強く人にやさしい消防」を目指して

―消防官として大切にしていることは

消防署の警防課長(消防・救急活動の責任者)の時には、「災害に強く人にやさしい消防」を標榜し、機会のあるごとに各隊長や隊員にも伝えていた。さまざまな災害への対応や緊急事態下でパニック状態の当事者と関わることは容易ではないが、消火・救急救助活動のプロフェッショナルとして、地域の方々に信頼される消防官でありたいと願い続けてきた。今でも「災害に強く人にやさしい消防」は全消防人の気持ちであり目標だろうと思う。

―訓練はどのようなことをしているのか

消防活動の基礎的な技術は、全て訓練を通じて習得している。消火活動一つをとっても火災の状況によって使用資機材や放水要領を使い分けている。延焼中の建物への進入、空気呼吸器を着装しての捜索活動や救出方法の訓練など、内容は多岐にわたる。ほかにも、複数の消防部隊で連携した総合的な消防訓練、隊長(指揮官)としての指揮訓練もある。

消防隊の訓練

精強な消防部隊を作るためには、基礎的な訓練と応用訓練、各部隊間の総合的な連携と指揮の訓練が必要だ。消防に入りたてのころは基礎を徹底し、階級や役職に応じて、規模の大きな指揮訓練なども行うようになる。

―今回、東京都では首都直下地震の被害想定を10年ぶりに見直しを図った。

最新の知見や都市構造、建物の耐震化などの状況を踏まえて想定を見直したのだが、高層マンション(タワーマンション)でエレベーター停止に伴う問題点や、「災害シナリオ」の作成など、震災対策上、参考になることが多い。被災後の生活上のリスクをイメージするために、災害シナリオを組織や個人レベルでもカスタマイズ(状況に応じた設定変更など)をして有効活用に努めてほしい。

大災害は大人も子供も関係なく、その地域の全ての人々を無慈悲に襲う。特に幼い子供や自力対応できない方々に被害が集中しやすい。なので、本当は小さいときから子供でも判断できるよう防災教育をしなければいけない。

幼児への防災教育はアメリカの防災教育が実践的だ。例えば、着衣に火が点いたら、①止まって②倒れて③転がって、着衣の火を消す方法を教えている。

子供たちにはゲームやアニメ、ぬいぐるみなど興味の持てるものを有効活用して繰り返し教えるのがいいだろう。恐怖心を植え付けるのではなく、どうすれば危険な状態が避けられるか、あるいは一人のときにどう対応すればいいのかを、重点的に教えるべきだ。そのため、幼児への防災教育の専門家の養成も願われている。

備蓄品を揃えたり防災訓練に参加することだけが防災ではない。日頃の暮らし方がすべて防災につながる。自分の身の回りの方々と日頃から「顔の見える」良好な人間関係が出来上がっていることも、その一つだ。

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