写真の力信じて 町おこし―新潟県新発田市の吉原写真館6代目 吉原 悠博さん

写真館は町の記憶装置 100年の歴史刻んだ家族写真に衝撃

新潟県新発田市の吉原写真館6代目、吉原悠博(ゆきひろ)さん(61)は、市民有志と写真文化プロジェクト「写真の町シバタ」を立ち上げて今年、11年目を迎える。130年以上の歴史を持つ写真館の経営、写真を通じての地域活性化、また創作活動にも意欲的だ。「この三つが、私のアーティスト活動」と語る吉原さんに、写真と故郷を見つける思いを聞いた。(青島孝志)

吉原悠博さん、写真館で(青島孝志撮影)

新潟県新発田市生まれの吉原さんは新発田高校から東京芸大油絵科に進み、米国に留学。アーティストとして20代からニューヨークや東京で大規模な個展を開催し、華やかな創作活動を展開。テレビモニターの光で浮かび上がる立体作品という斬新な作風も評価され、吉原さんは自身が、美術家として生きることを疑わなかったという。友人に音楽家、坂本龍一氏らがいた。

そんな吉原さんに、転機が訪れたのは平成17(2005)年。「吉原写真館」5代目で、父の俊雄さんが倒れたため、しばしば帰省していた折、偶然に蔵の奥から大量のガラス乾板を発見したのである。

「そういえば、新発田大火の際、おばあちゃんが乾板をリュックに背負い、避難したと、おやじが言っていたな」

悠博さんが現代技術を用いてパソコン上で取り込むと、モーニング姿の祖父、秀長の真正面を向いた肖像写真が浮かび上がった。

「祖父は、自分にこう語っているようでした。『家の稼業も継がないで、何がアーティストだ』と。あの時の衝撃は一生、忘れられないでしょうね」

悠博さんは、数カ月かけて乾板から写真を起こす作業に没頭。明治初期からの900枚の写真は、5代にわたって100年以上、家族を見守り続けた一族の写真だった。そこには、時代の空気、町の賑(にぎ)わい、家族の平安と愛までもが記録されていた。「ここを継ぐことはないだろう」そう思っていた悠博さんは写真館6代目を継ぐ決心をする。

吉原さんは、写真館での撮影の傍ら、有志と共に写真文化プロジェクト「写真の町シバタ」を2011年からスタートさせた。

「写真の町シバタ」のポスター(提供写真)

各商店に残る記念写真を、店先に飾ってもらう。また1枚の写真を選んで、ポスターにして市内全体に展示する『まちの記憶』展をはじめ、『アルバムのチカラ』見聞録展、新発田の見どころを紹介する『まちあるきのすすめ展』など多彩なイベントを毎年10月に開催してきた。

反応はどうだったのか。

「お店を訪ねて趣旨を説明すると、明治、大正、昭和の『お宝』がどんどん出てきました。そのことで、お店の人自身が歴史を見直す機会になったと感謝されました。一枚の写真がきっかけで、かつて新発田市に住み、今はハワイ在住の方の家族が訪れたり…。さまざまな物語が生まれ、商店街が賑わい、仲間も増えました。写真館が、『町の記憶装置』なんだと気づきました」

ただ、初期の段階で商店街の約130店舗が企画に関わったが年々、さまざまな事情で参加するお店が少なくなる現実とも直面した。

吉原さん自身は写真を通じて、故郷が近くなった、大切な仲間が増えた、という手応えがあった。また、写真企画を通じて、文化都市・新発田市をアピールしていきたいというビジョンを抱いている。

 「1枚の写真には、お金に換えられない価値があることをこれからも伝えていきたい」

魅力あふれる多くの写真から一人の女性の写真を紹介したい。

吉原写真館3代目、長平が撮影した次女ナルミをモデルにしたものだ。明治40(1907)年ナルミ6歳。

「おとなしく我慢強い性格のナルミは、父の寵愛を受け、撮影のモデルになることが多く、多数の写真が残されている」と記録されている。

大きく見開いたつぶらな瞳に、緊張感が漂う。父が、「しっかりとこちらを見て」と声を掛けたからか、母が「赤ん坊をしっかりと抱いて」と言葉を掛けたせいだろうか。両手で強く抱かれた赤ん坊は美しい寝間着に包まれている。赤ちゃんの安らかな寝顔と、ナルミの緊張感に満ちた表情のコントラスト。

次は、美しく成人し、大正13年、23歳の時の着物姿の写真。この年、結婚し、5人の子を授かる。最後の写真は、68歳を迎えたナルミと夫、娘や息子、孫たちとの集合写真だ。昭和44年撮影。たった3枚の写真から、この女性の生涯をさまざまに想像できよう。これがまさに写真のチカラと言える。

吉原写真館は今年133年目を迎える。

現在の建物は、昭和11(1936)年に竣工された。木造3階建のモルタル造りの昭和モダン建築で大変珍しく、平成29年に国指定の有形文化財に登録されている。

吉原さんは一時期、修繕箇所があまりに多いため、建物を壊し、廃業も考えたという。しかし、「一地方の小さな写真館とはいえ、代を超えて撮影を続けているご家族も多数います。また、写真館が町の記憶装置として大事な役割を果たしているのも知った」として、クラウドファンディングで資金を募り、ほぼ同額の自己資金と合わせて修復を決意。新しい写真館は、屋上バルコニーを復元させ、花火見物、トークショー、自家焙煎珈琲茶会、映像上映会などのイベントを開く。

さらには、3階に二つの展示ギャラリーをつくり、写真の魅力や技術が学べる学校、美術館、人が集う「コミュニティースペース」の機能も果たしていきたいと構想は膨らむ。

「写真館を地元新発田の文化発信基地にすることは、私の夢です。新発田に大切に保管されていた文化財を展示して、世界に発信していきたいと考えています。また、美術家でもある私は、多くの美術家や音楽家の友人がいます。その友人と連携して、文化発信も可能です」と吉原さん。クラウドファンディングは6月23日まで。吉原写真館のホームページからアクセスできます。

吉原写真館(https://y-ps.com/)

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