トップオピニオンインタビュー放課後の部活動減少の中で

放課後の部活動減少の中で

―北海学園大学教職課程非常勤講師 山下薫氏に聞く

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地域の人材を借りて 予算の確保が課題に

公立学校の放課後に行われている部活動の数が少子化によって減少傾向にある。北海道内の中学・高校において合計で平成29年度(3555部)から令和2年度(3125部)の4年間で430部、約12%減少している。今後、部活動の有効性を持続させるにはいかなる処方箋が必要なのか、長年、公立高校で教鞭(きょうべん)を執り現在、北海学園大学教職課程非常勤講師の山下薫氏に聞いた。(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

 ――山下先生は長い間、高校で教鞭を執ってきたが、教諭あるいは教頭・校長時代からすでに学校内の部活動低下というような状況はあったのですか。

部活動が減少していく傾向は、20年前からありました。その頃私は札幌市内の高校で体育の授業を受け持っていました。その時でも部活動の人数が少なくてチームをつくることができない高校がある、というような声はチラホラ聞こえました。チームがつくれないと高等学校体育連盟(高体連)などが主催するスポーツ大会に参加できないので大変だなと感じていました。

もっとも、そうした事態を如実に体験したのは今から10年前です。後志管内の道立古平高校の校長として赴任していた時のことです。夏の甲子園出場を目指して戦う南北海道大会地区予選に参加しなければならないのですが、野球チームを結成しようにも人数が足りません。そこで隣町の道立余市紅志高校と合同チームをつくって試合に出ることになりました。余市紅志高校も人数が足りないという情報は得ていたので、相手方の高校の校長や顧問教諭と話し合い、北海道高校野球連盟へ申請して試合に臨んだことを覚えています。

 やました・かおる 昭和28年、上砂川町生まれ。昭和51年、大阪体育大学体育学部卒(スキー国体大阪代表)。52年、宗谷管内の中頓別農業高校保健体育教諭、名寄農業高校、札幌平岡高校教諭(教諭時代:男子バレーボール部顧問、公認審判員・基礎スキー指導員)を経て、平成14年十勝管内の芽室高校教頭に就任、その後、江別高校、苫小牧南高校教頭を経て、平成22年に後志管内の古平高校校長に就任、その後、平成24年に空知管内の深川西高校校長として赴任し、翌年退職、現在は現職のほか北翔大学非常勤講師、明海大学進学アドバイザーでもある。

 ――合同チームの場合、練習などはどのようにして行うのですか。

合同チームの内訳は古平高校の選手が4人、余市紅志高校が5人でマネジャーが1人。チーム練習は余市紅志高校のグラウンドを使って週3回ほどのペースで行っていました。練習日、古平高校チームは放課後に路線バスで移動、人数はぎりぎりでしたが、チームワークはとても良く、特にマネジャーは身障者で車椅子です。選手が代わる代わるマネジャーの車椅子を押す光景は心温まるものでした。実は、古平高校はその年の秋に閉校することが決まっていました。古平高校歴史最後の試合(対小樽市内私立高校)、9回まで僅差の大接戦、残念ながら敗退しましたが、合同チーム全員にとって、また支えてきた保護者・OB、地域住民にとって一生の宝となる大会になったと思います。

 ――学校で授業が終わった放課後に部活動を行うのは日本だけと聞いています。部活動の意義、良さについてどのように思いますか。

部活動は授業と違い、本人が自らの思いで好きな部に入ることができます。関心、やる気を持って部活動すると、知識や技術が蓄積され、さらに意欲が湧いてきます。その意欲とやる気が別な面へのプラスの相乗効果となって出てきます。例えば、部活動で頑張っていくと、勉強に対してもやる気、向上心が出ます。部活動だけをやって学業の成績が下がれば、最終的に部活動を続けることはできなくなりますから、そうなれば当然、学業にも力が入ります。

また、部活動に入っていなければ、同級生の友達といった横のつながりだけですが、部活動では年配の方、先輩、さらに後輩、顧問といった異年齢の方々との交流が広がってきます。そこでは年配の人へのきちっとあいさつや態度、後輩への面倒といったことを覚えていきます。部活動は生徒自身の人間形成・コミュニケーション能力向上に大きなプラス効果を生むことは間違いないです。

――そうした部活動が少子化によって数が減少しているわけですが、その一方で部活動を支える教師の側の負担が大きく、それが教師の働き方改革を推し進める要因と聞きますが。

教員は必ず部活動の顧問に就かなければならないというものではありません。強制ではありませんから、部活動の数が少なければ、顧問に就かない教員もいます。逆に、一人で二つの部活動の顧問に就く教員もいます。ただ、部活動には必ず顧問を付けるという規則はあります。学校外部の人は部活動のコーチはできますが、顧問にはなれません。スポーツ大会など生徒を引率する場合は教員による顧問が必要となってきます。ですから、教師が「私は部活動の顧問にはなりません」とはっきり意思表示をして顧問に就かないケースもあります。

一方、教員の平均就業時間を見ると週56時間となっています。この内訳は、およそ平日で学校内での勤務時間が8時間、加えて午後5時から7時までの部活動指導で2時間、さらに土日の部活動でそれぞれ3時間ずつとなり合計で56時間となります。もっとも、平日でも部活動指導が終われば職員室に戻って翌日の教材研究・クラス経営作業等など一日15時間勤務といったこともあるかもしれません。

ただ、私たちが教師の時代は教師の側からも部活動で良い面がありました。私が道内高校の校長をしていた時、家庭科の若い女性教諭が柔道部の第二顧問になりました。吹けば飛ぶようなか弱い先生だったのですが、生徒と一緒になって練習し、初段を獲得しました。すると自信を持って生徒と接するようになり、それが教科指導にも良い効果を発揮していったのです。そのような例はいくつもあります。教師が生徒と寄り添い一緒になって教師も成長していく、部活動にはそうした意味合いもあると思います。

――ただ、教師の働き方改革は時代の流れのようになっていると思いますが。

確かに働き方改革は、時代の流れになっていると思います。従って、部活動は社会スポーツの方向に向かっていくのではないでしょうか。すなわち、学力向上もスポーツもすべて学校が請け負うというのではなく、地域の力や外部の力を借りて子供たちを教育する時代に入ったのだと思います。学校外の専門家、地域のスポーツ協会、退職された学校関係者など地域の人材を巻き込んだ社会教育としてのスポーツが主流になってくると思われます。

もちろん、学校の部活動がすべてなくなるとは思いません。ただ、もうすでに土日の部活動に関しては外部に任すというところも出ているようです。また、平日の部活動においても外部から積極的にコーチとして招き、土日はそのコーチのところで指導してもらう。

その際の課題は予算をどうするかということ。外部で指導してもらうとすれば、それは親の負担になりますし、外部からコーチを招聘(しょうへい)すればお金がかかります。限られた予算の中で、外部の人材をどう活用するか。その辺は悩ましい問題ですが、国や自治体からの支援は不可欠になると思います。とにかく、子供たちに寄り添って成長を見守っていくという思いが何よりも大事なのではないかと思います。


【メモ】少子高齢化による人口減少は、単に学級減少、統廃合だけにとどまらず、部活動といった日本特有の教育文化にも影響を及ぼしている。さらに教師の働き方改革などで、これまで日本の教育は大きな転換期を迎えている。それでも山下氏は、子供に寄り添って成長を見守る中で、教師も共に成長すると言う。その思いには共感を覚える。

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