共に勝利なき戦争 長期化も 【ウクライナ危機 識者に聞く】

東京外国語大学教授 篠田英朗氏(上) (中)

ウクライナ北東部の都市ハルキウでロシアの空爆を避けるため地下鉄の駅で避難生活を強いられるウクライナの市民ら=ウクライナ北東部ハルキウ、4月28日(UPI)

ウクライナとロシアの和平の行方はどうなるか。

現在、東部地域で一つのヤマ、天王山的な戦闘が起こっている。この戦闘の行方が早期に見えてきた場合には、かなり大きな事情変更になる。

今回の侵略戦争について、おおむね軍事専門家はウクライナの敗北不可避と言い、歴史家はロシアの敗北不可避だと言っている。私は両方とも正しいと思っている。

軍事的にウクライナがロシアに完全な勝利を収める可能性は限りなくゼロに近い。負ける前にどれくらい望ましい状態をつくれるか、ということで現在戦っている。

しのだ・ひであき 昭和43年生まれ。早稲田大政経学部卒。ロンドン大(LSE)国際関係学部博士課程修了。国際関係学博士。現在、東京外語大大学院総合国際学研究院教授。専門は平和構築。著書に『紛争解決ってなんだろう』(ちくまプリマー)、『憲法学の病』(新潮新書)など。

敗北不可避とは、即日降伏という結論とは違う。10年かけても勝ち取るものがあり、そこに見合う犠牲が払えるのなら、10年かけてもやるという政策判断は可能だ。ゼレンスキー大統領は現時点ではぎりぎりの中で合理的と思われる選択をしている。

歴史家がロシア必敗を唱える理由は。

ロシアは、キーウのゼレンスキー政権を叩(たた)きのめして、48時間以内に大統領を失脚または亡命させ、親露派がクーデターを起こして政権を取ることを目論(もくろ)んだが、失敗に終わった。クライナ人の憎しみは日々高まっており、これからさらに脅かしたところで、憎しみが収まることはない。ロシアはウクライナを焼け野原にすることはできても、円滑な形で統治したり、緩衝地帯につくり変えたりはできない。つまり勝利できない。

ロシア側も歴史的、長期的な観点では自分たちの敗北を少し是正している。絶対に譲らない一線は、クリミア併合の半永久的な確定の試みだ。次に、ウクライナ東部地域の事実上の衛星国化。本当は、そのことを認めるキーウ政権の確立もしたかった。

ウクライナが当面、受け入れるとは思えない。

クリミア奪還は現実的可能性の範囲内で無理。そこでしのぎを削っているのが、東部地域の行方だ。ウクライナが圧勝すれば、東部地域からロシア軍が追い出される。これは非常に難しいが、そこを現実目標の最高地点において、ウクライナ軍は戦っている。

東部地域はもともと、ロシア軍が形式上はおらず、親露派の反政府勢力の自治区のようなものがあっただけ。この状況まで戻すのが、ウクライナ軍の次の目標だ。

現在、それよりも多くロシア軍が浸透しているので、軍事的には一回押し戻す必要がある。

ロシアは東部地域を失うと、何のために1万人以上の戦死者が出ている戦争を始めたのか分からなくなる。せめて東部地域のドネツク、ルガンスクを行政州の単位くらいまで拡大させた形で、ロシアの衛星地域として確定させたいわけで、落としどころが見つからない。

ロシアが東部、南部での攻勢を強めている。

今後、戦況が大きく見えてきた場合は、その現状を見て停戦合意が進む可能性もある。

他方、戦争が長期化し、どちらが圧勝するか分からない事情が続く懸念もある。これは非常に由々しき事態だが、回避する手段がないので、次善の策は、東部戦線で一定の方向性が出た時に、それを見抜いて、1日でも早く停戦合意の機運を高めることだ。

和平調停に日本はどう関与すべきか。

欧米諸国の調停努力を側面支援したり、彼らが期待する役割を遂行したりしていくことはとても大切だ。

欧米諸国は北東アジアで有事があった時、軍事介入は別としても、日本の力になってくれる大切な友好国だ。同盟国の米国はもちろん、同じ価値観を共有する彼らに、日本は欧州有事の際に貢献してくれたという感覚を持ってもらうことは、日本の国益にも合致する。(聞き手=武田滋樹、亀井玲那)

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