ウクライナ危機は北大西洋条約機構(NATO)加盟問題が原因の一つだが、昨年11月からウクライナ国境付近にロシア軍が集結して圧力をかけ、プーチン露大統領はウクライナのNATO不加盟の法的保障を欧米諸国に求めた。ロシアなりの計算があったのではないか。
プーチン大統領なりの計算があったと思う。つまり、「米国は現在、中国との戦いに資源を集中したいはずだ。今なら米国は二正面対立を避けるため、ロシアに妥協するはずだ」と考えたのだろう。
米国はロシアにある程度譲歩してウクライナ侵攻を回避し、中国との争いに資源を集中すべきだったと思う。中露と同時に争うのは、戦略的とはいえない。
侵攻前の首脳外交で欧米側は法治主義的な回答でロシアの要求を切り捨てた。今回、国際法を侵したロシアの価値観、歴史観の違いなど欧米諸国にも誤算があったのではないか。
反ロシア軍事同盟NATOは、ソ連崩壊時16カ国だった。それが30カ国まで増えている。プーチン氏は、「NATO拡大はロシアの脅威である」ことを繰り返し訴えていたが、欧米は無視し続け、「窮鼠(きゅうそ)猫を噛(か)む」状態に追い込んでしまった。欧米は「NATO拡大によって欧州は安定する」と考えたのだろうが、実際は逆になってしまった。これは、大きな誤算だったと思う。
ウクライナのブチャで数百人の民間人殺害が確認された。ロシアにどう響いていくとみるか。
評判が失墜し、国際社会における孤立がさらに深まる。さらに制裁が強化され、停戦合意が遠のく。
ロシア軍の民間人への無差別攻撃などネットを通じて世界中に拡散している。プーチン政権は情報統制しているが、ロシア国民に伝える手段はないのか。
若い世代は、ユーチューブ、テレグラムなどを通してウクライナで起こっていることを正確に把握していることが多い。しかし、その情報をSNSなどで拡散すると、「フェイク情報を拡散した罪」で最長禁錮15年の刑になってしまう。反戦デモに参加すると逮捕され、失職する可能性が高いため、デモも徐々に規模が小さくなっている。テレビだけ見ている中年より上の世代は、「ウクライナのネオナチ政権を打倒するのはよいことだ」というプロパガンダを信じている。
ラブロフ外相や国連でのネベンジャ大使の発言はロシア軍の民間人殺害を認めないなど強弁が続く。なぜここまで事実と違うことが言えると思うか。
「ロシアに都合が悪いことがあれば、取りあえず『フェイクだ』と言う」ことを決めているようだ。ロシア軍が悪いことをしたことを認めると、国民がついてこなくなると恐れているのだろう。
プーチン大統領やロシア政府は、国際社会の情報戦で圧倒的に劣勢だが、国内をまとめ上げることには成功している。ブチャの虐殺についても、「ウクライナがフェイク映像をでっち上げた」などと報道し、それを信じさせることに成功すると思う。
対露制裁はかつてなく厳しいものだが、今後ロシアはどうなると見るか。
ウクライナとの戦争に勝っても負けても、プーチン・ロシアの未来は暗い。プーチン大統領の1期目2期目の2000年から08年まで、ロシアのGDP成長率は、年平均7%だった。
しかし、クリミアを併合した14年から20年までの成長率は、年平均0・38%になり、まったく成長しなくなった。その大きな理由は、欧米日からの経済制裁だ。今回の制裁は比較にならないほど厳しく、長期になるので、プーチン・ロシアに明るい未来はない。