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ロシアの侵攻が長期化し、プーチン政権が揺らぐ可能性はあるか。
揺らぐ可能性は大いにあると思う。プーチン政権をこれまで支えていた新興財閥が、すでに裏切っている。戦争に反対している新興財閥の例を挙げれば、アルミ生産大手ルサルの元CEOデリパスカ氏、ロシア石油2位ルクオイルのアレクペロフ社長、ロシア4位の銀行アルファバンクなどを傘下に収めるアルファグループの創業者フリードマン氏、2020年にロシア1位の富豪だったポターニン氏(インターロスグループ会長)などだ。

彼らにとってプーチン氏は、自分たちの資産を守ってくれる存在だったが、侵攻後は「制裁を科される原因をつくる迷惑な存在」になっている。
シロビキ(軍、諜報〈ちょうほう〉機関、治安機関など)を構成する軍も揺らいでいる。日本ではほとんど知られていないが、「全ロシア将校協会」は1月31日、「ウクライナ侵攻中止」と「プーチン辞任」を求める公開書簡を公式ホームページに掲載した。この書簡を作成したイワショフ退役上級大将は、ウクライナ侵攻すればその結果について、以下のように書いている。
<ロシアは間違いなく平和と国際安全保障を脅かす国のカテゴリーに分類され、最も厳しい制裁の対象となり、国際社会で孤立し、おそらく独立国家の地位を奪われるだろう>
ロシアは、「独立国家の地位」を奪われていない。しかし、その他は現実化している。これが侵攻の25日前に出されていることに注目する必要がある。
にもかかわらず、なぜプーチン氏は軍事侵攻に踏み切ったと考えるか。
全ロシア将校協会には、現役将校も退役将校も所属している。しかし、現役将校は多忙なため、運営は退役将校が中心になっている。イワショフ退役上級大将が会長だが、協会の公開書簡の予測よりも、現場(ウクライナ)を直接見ている連邦保安局(FSB)第5局の情報が正確だと思われたのだろう。
だが、結局、全ロシア将校協会の1月末の予測の方が正確だったことが明らかになってきている。
侵攻したロシア軍の士気の低さが指摘されるが。
イワショフ氏は公開書簡で、戦争の理由について、<戦争は、しばらくの期間、反国家的権力と、国民から盗んだ富を守るための手段だ>と断言している。つまり、「国益」ではなく、プーチンと取り巻きの「私益」を守るための戦争だと。これを読んだ、ロシア軍の士気が上がらないのは当然だろう。
諜報機関も揺れている。FSB第5局のセルゲイ・ベセダ局長が、自宅軟禁状態にあると報じられている。ベセダ氏は、「ウクライナ国民はゼレンスキーのネオナチ政権を憎んでおり、ロシア軍を解放者として迎えるだろう」などと報告していた。プーチン氏は、ベセダ氏の誤情報を基に、「2~3日でキエフ(キーウ)を陥落できる」と確信し、侵攻に踏み切ったのだろう。
現在、軍と諜報機関は、「苦戦の責任」を追及される立場にある。粛清を恐れる軍、諜報機関がクーデターを画策する可能性もあると思う。
制裁でロシアは戦略的敗北
独立国の地位を奪われるという公開書簡の警告は、実際にあり得るか。
これは、今後の展開次第だと思う。もし、プーチン氏が、ルガンスク、ドネツク、マリウポリなどの実効支配で満足し、停戦に合意すれば、「独立国の地位を奪われる」まではいかないだろう。その場合でも、制裁は解除されないので、ロシア経済はボロボロになり、「戦略的敗北」は逃れられないと思う。
ウクライナを越え、バルト3国、ポーランドなどに侵攻すれば、NATOと第3次世界大戦が勃発し、核戦争の可能性も高まる。ここまでくると、ロシアは敗戦後、ナチス・ドイツのような裁きを受けることになるだろう。そうなると、ロシアは、「完全な独立国家」とはいえない状態に陥る。
チュバイス大統領特別代表が辞任後の自身のフェイスブックに民主派で凶弾に倒れたボリス・ネムツォフ氏の写真を投稿したと報道されたが。
チュバイス氏は1990年代初め、ロシアの民営化政策を主導した人物だ。その後、「統一エネルギーシステム」などを率いていたが、常に欧米と緊密な関係を維持してきた。チュバイス氏と同じくリベラル派のネムツォフ氏は、第1副首相だった97年、「エリツィン大統領の後継者」とみられていた。しかし、エリツィンが選んだのは、リベラルとは程遠いKGB(旧ソ連国家保安委員会)出身のプーチン氏だった。
チュバイス氏は、「エリツィンがネムツォフを後継者に選んでいれば、欧米との関係は良好で、今回の戦争はなかっただろう」と考えたのかもしれない。
侵攻でロシアは極めて厳しい状態になり、いずれプーチン後を迎えるが、ロシア再生のチャンスはあるか。
ロシアの希望は若い世代だ。彼らは、国営テレビのプロパガンダに洗脳されていない。自由に欧米に行き来し、ユーチューブを見て、西側の価値観を共有している。プーチン政権の幹部は、ほとんどが旧KGB系だ。「新生ロシア」とはいうが、ロシアの支配者は、「ソ連時代そのまま」なのだ。ロシアは、「ソ連を知らない世代」が国を治めるようになった時、再生し始めるだろう。
(聞き手=窪田伸雄)