露、“親中”政権の排除も 【ウクライナ危機 識者に聞く】

中国研究所会長・中央アジアコーカサス研究所所長 田中哲二氏(上)

21日、モスクワで、ウクライナ東部の親露派の独立を承認する文書に署名するロシアのプーチン大統領(AFP時事)

ロシアのプーチン大統領が始めたウクライナ侵攻を語る上で、中国・ウクライナ関係はぜひ押さえておく必要がある。プーチン氏には北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大阻止や親露政権の樹立だけが目的なのではなく、中国の習近平政権と親しいウクライナ政権は排除するという隠された目論(もくろ)みがある。

現在、中露は対米戦略上、表向きは中国発ヨーロッパ向け大陸横断鉄道「中欧班列」のシベリア鉄道運行協力を看板とする「中露蜜月時代」を演出しているが、深層では歴史的にも地政学的にも真の友好関係を形成するには至れない微妙な緊張関係が存続している。

ウクライナは、中露双方にとって極めて重要な場所だ。ロシアにとっては、ユーラシア主義推進の最西端の橋頭堡(きょうとうほ)であり、最低限でも東漸NATO勢力に対するロシア寄りの緩衝地帯であることを期待してきた。一方、中国は巨大経済圏構想「一帯一路」で、アフガニスタン、イラン、東欧の友好国をつないで欧州につながる陸のシルクロードを完成させたい。そのためにウクライナは海陸双方に繋がる要衝の地だ。中国は、必ずしも想定した通りに進んでいない「一帯一路」構想を成功させる鍵の一つはウクライナだとみて、執拗にウクライナ政府に接近してきた。

たなか・てつじ 1942年埼玉県生まれ。67年東京外大卒・日本銀行入行。93年日銀参事からIMF・日銀の派遣でキルギス中央銀行最高顧問、後にキルギス大統領顧問、「中央アジア日本センター」初代館長を務める。タシケント国立経済大学名誉教授。著書に『キルギス大統領顧問日記』など。

習政権は、ウクライナと親露派のヤヌコビッチ政権時代から、のちに中国初の正式空母「遼寧」に衣替えする廃艦空母「ワリャーグ」を購入したり、ミサイル関連等軍事技術の融通のほか、特殊技術を要する砕氷船やホバークラフトを手に入れていた。

2013年暮れには核問題での協力を含む「中国・ウクライナ協定」も結んでいる。さらに、中国ウイグル自治区の「新疆開発集団公司」による東ウクライナを中心とする300万㌶(福島県プラス岩手県に匹敵)の穀物生産農地の長期租借計画と、クリミア半島のエフパトリア港の南側に、東ウクライナの租借地での大量生産物を中国に向けて積みだす「新深穀物輸出港」の掘削工事をスタートさせていた。

特に、この「新港」は、黒海・地中海・東大西洋の半分の海域安全保障を担うロシアの黒海艦隊の母港であるセバストポリ軍港のすぐ北側に位置している。そう遠くない将来、中国の穀物輸送船団、場合によってはこれを守る人民解放軍の護衛艦がロシアの最重要軍港の沖合を頻繁に通過することが想定されるに至った。

2014年3月にプーチン大統領が性急とも見えた「住民投票」を実施してクリミア半島を併合したのは、対NATOに加え中国による穀物用農地の長期租借と新深港建設を阻止するための緊急措置でもあったとの見方が強まっている。

実はこの直前のユーロ・マイダン民主革命で、本来救済すべき親露派ヤヌコビッチ政権が倒されたとき、プーチン大統領は中国・習近平政権に通じた政権の末路を見るという姿勢で傍観を決め込んでいたという。いずれにしても、この結果、中国の「一帯一路」戦略に基くウクライナでのプロジェクトは大半が停止したと考えられていた。

一方、ロシアにとりウクライナは同じスラブ族の兄弟国家だ。“弟分”のウクライナで影響力を強める中国を、クリミア半島編入後もプーチン氏は暗黙の裡に強く警戒してきた。今回の侵攻後にウクライナを脱出した中国人が約7000人いたと報じられているが、これは現政権の承認の下である程度「一帯一路」構想のプロジェクトが復活していたことの証左と見られる。

プーチン氏はこの侵攻で「中国と親しくする政権は痛い目に遭う」ということを見せつけようと画策した気配がある。このことが、世界中から侵攻批判が高まる中でロシア軍が首都キーウを包囲するまでの強行姿勢を示した一つの要因と考えられる。

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