台北駐日経済文化代表処那覇分処 范振國処長に聞く
ロシアがウクライナに軍事侵攻していることは、台湾を震撼(しんかん)させている。台北駐日経済文化代表処那覇分処の范振國処長(50)にウクライナ侵攻の台湾での受け止めや東アジアの安全保障環境、日台連携の在り方などについて聞いた。(聞き手・豊田 剛)
台湾とは同質であり異質、運命共同体の沖縄と連携を
――ロシアがウクライナに軍事侵攻している。台湾ではどのように受け止められているか。
台湾では対岸の火事ではないと強い警戒感がある。ウクライナ国民が勇気をもって戦う意思を示すことに、人々は感銘を受けている。
蔡英文政権が発足して以来、国防には力を入れており、弾道ミサイルを全土に配備している。潜水艦や戦闘機、ミサイル開発も進めている。軍事面で他国に頼るのは不確実だという認識を持っている。
ただ、現代の世界戦略は軍事から科学技術にシフトしている。台湾は半導体や電子部品の分野で世界のサプライチェーンの中で大きな役割を果たしている。
世界中がウクライナと同じように台湾のことを心配してくれているが、ウクライナと台湾は同質であり異質である。
ロシアとウクライナは陸続きだが、台湾と中国は海峡を挟んでいる。台湾政府が発足した1949年以来、台湾は一つの国として独自に経済発展し、国防も備えている。自分で防衛することが大原則で、万が一攻撃されたならば、反撃する能力は備えている。今は中国が挑発すればするほど人々は団結する。
同質な部分は、ロシアも中国も力による一方的な現状変更をしようと試みているところだ。中国は東シナ海への進出や第1列島戦突破を力ずくで行おうとしている。習近平国家主席は「武力行使も選択肢」と明言している。世界各国から制裁を受けたり国民から反発されるロシアの様子を見て、習氏は同じようなことをすればどう自分の身に降り掛かるか分析しているのではないか。
――台湾と国境を接する沖縄はどう備えたらいいと思うか。
同じ第1列島線に位置する沖縄と台湾は運命共同体だと言っても過言ではない。台湾と沖縄はあらゆる面で連携することが重要になってくる。
中国にとって太平洋に進出するには台湾を取るか沖縄の海域を突破するかのどちらかだ。第1列島線は民主主義陣営にとって一番大切なラインだ。だから米軍にとってもここを守ることは重要なミッションで、沖縄に米軍が集中する理由の一つになっている。
日本版「台湾関係法」制定に期待、直行便の早期再開を
――米国の台湾関係法は軍事や政治における交流を可能にしている。日本版台湾関係法の制定に対する期待はあるか。
もちろんある。現在、日本と台湾の間に民間交流以外の法整備は全くない。米国の台湾関係法によって武器輸出も政府間の交流も可能になっている。日本と台湾は共に、力で現状を変更しようとする中国の隣国だ。台湾政府は、日本も米国と同様の法整備をするよう求めている。
ウクライナ情勢を見ても、今まで以上に積極的に連携しないといけないことが分かる。
――今月中に外交部台湾日本関係協会に異動する。2010年に那覇分処領務部長として6年間沖縄に滞在し、18年に処長として再び沖縄に戻った。沖縄で過ごした10年を振り返って。
外交部の歴史の中で私が最も沖縄勤務が長い。2010年、沖縄を訪れる台湾人は約13万人だったが、コロナ禍前の19年には約95万人にまで増えた。沖縄と台湾の交流が拡大している。観光以外の産業にも波及効果が出ているのを感じる。
沖縄県民の多くが台湾に留学するようになった。観光に関連する仕事では、中国語が話せれば優先して採用される傾向にある。これが留学への動機付けになっている。
――沖縄在任中、印象深い出来事は何か。
最も衝撃を受けたのは2019年の首里城火災だ。正殿など主な施設が焼失してしまった。台湾ではその日、一日中ニュースで映像を流していた。蔡英文総統はすぐにお見舞いのメッセージを送ったが、これは沖縄を大事に思っていることの表れだ。正殿再建のために台湾ではすぐに募金が集まり、外交部もどの国よりも早く義援金を募った。
もう一つは、新型コロナウイルス感染の拡大だ。世界規模で交流が中断したのは人類史上初めてではないか。2年間、日本などとの直行便がなくなったのは残念だったが、国際便の再開が待ち遠しい。
――ウィズ・コロナの時代を迎え、台湾政府の対外制限緩和策は。
台湾政府は今月7日、入国後の隔離期間を14日から10日間へ短縮した。今年秋頃にも、入国制限を完全に解除する可能性がある。
ただ、沖縄県内の空港の検疫体制が整っていないため、沖縄との直行便の再開はまだ見通せない。沖縄に行きたければ、どこかを経由しないといけない。時間的にも経済的にも大きな損失になる。
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范 振國(はん・しんこく)氏のプロフィール
台湾新竹県出身。台湾大学卒業後、九州大学大学院で経営管理修士号を取得。外交部アジア太平洋局日本政治科課長、台北駐那覇経済文化代表処部長、台湾日本関係協会副秘書長などを歴任し、2018年に代表処那覇処長に就任。3月中に外交部台湾日本関係協会に異動する。