尖閣・与那国も紛争地に

「台湾有事」のシナリオ―日米台識者に聞く(2)
河野克俊氏
かわの・かつとし 1954年、北海道生まれ。防衛大卒。海上自衛隊・佐世保地方総監部幕僚長、海上幕僚監部防衛部長、掃海隊群司令、自衛艦隊司令官、海上幕僚長などを歴任。2014年、第5代統合幕僚長。19年、退官。

前統合幕僚長 河野克俊氏(下)

台湾有事に米軍はどのように介入するか。

米軍が台湾を助けるオペレーションを行うのであれば、中国に既成事実を作らせる前に迅速に介入しなければならない。情報戦のせめぎ合いの中で、軍事侵攻の兆候が見えた段階で米国はその体制を整えるだろう。

しかし、やはり基本は、軍事バランスを米軍優位に持っていくことで中国を抑止し、手出しさせないことだ。それでも中国が侵攻した場合は、米国はいかに迅速な展開ができるかがカギとなる。

米国が介入した場合、日本はどこまで動けるか。

自衛隊は法律に書いてあることしかできない。台湾危機の際に自衛隊が行動する場合の法的根拠として考えられるのは三つだ。一つは「重要影響事態」であると認定された場合、米軍の後方支援ができる。

二つ目は「存立危機事態」、つまり、このまま放っておけば日本の国民生活が根底から覆される事態が予想される状態であれば、日本が攻撃をされていなくても防衛出動で米国を支援することができる。

そして、三つ目が「武力攻撃事態」で、これは日本が攻撃を受けた場合だ。当然のことながら防衛出動をする。

日本は状況に応じてどの事態に当てはまるのかの認定をしなければならないことになる。それぞれの事態によって自衛隊ができることが違ってくるからだ。そこが他の国とは違う部分だ。

日本とは無縁の話だと思っている国民もいる。

日本国内では台湾有事を他人事(ひとごと)のように捉える向きがある。安倍晋三元首相が「台湾有事は日本有事」と発言して波紋を広げたが、中国は尖閣諸島を「台湾の一部だ」と主張している。だから、台湾に軍事侵攻して完全に奪取するとなった場合、理屈上は台湾と尖閣はセットであると考えなければならない。

台湾への武力侵攻とともに尖閣にも侵攻することになれば、一気に武力攻撃事態だ。安倍元首相が言うように、台湾有事が日本有事になる可能性は極めて高い。この問題について、国民の代表機関である国会でしっかりと議論することが世論を喚起していくことにつながる。

海警法施行から半年、日本政府「世論戦」で対抗
尖閣諸島の魚釣島周辺を巡航する海上保安庁の巡視船=2012年9月、沖縄県尖閣諸島沖

尖閣もそうだが、与那国島も台湾にとても近い。約110㌔の距離しかなく、天気のいい日は台湾を目視できるほどだ。そのような距離にある台湾で、もし大きな紛争が起きれば、与那国島に火の粉が降ってこないということは軍事的には考えられない。
だから、台湾有事を未然に防がなければならない。中国に「台湾に手を出せば、痛い目に合うぞ」と示して、とどまらせることが何より重要だ。

台湾有事に備える上で日本の課題は。

日米首脳会談で台湾海峡の平和と安定の重要性が明記されたが、これは大きな政治メッセージだ。これを素直に受け取ると、台湾海峡で有事が起きた場合、日米が共同して平和と安定を回復しようということだろう。

だから台湾有事が起こった場合、日米でどのような行動を取るのか、具体的には日米共同作戦計画のようなものを今後詰めていかなければならない。その上で、政治的な問題もあるだろうが、当然台湾との対話も必要になってくる。

邦人救出を行う際の課題は。

アフガニスタンでの問題点を踏まえ、法律を改正する案が出ている。ただ政府にはやはり、民間機で救出できるなら民間機でやってしまおうという発想があるように思う。しかし、紛争地帯やその危険性がある地域では、最初から自衛隊機を使うという発想が必要ではないか。
(聞き手=政治部・川瀬裕也)


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