若者の間で薬物の過剰摂取(オーバードーズ、OD)が深刻化している。薬物を乱用し病院に救急搬送される10代の急増は、人間の絆が弱まる社会を映し出している。家庭、学校、地域で薬物依存の恐ろしさを伝えるとともに、若者の心の異変に早く気付き、支援につなげる仕組みを広げる必要がある。

違法薬物の入り口にも
国立病院機構災害医療センター(東京都立川市)によると、昨年、ODによる急性薬物中毒で救急搬送されたのは172人で、2015年(118人)の約1・5倍だった。10代に限ると38人で4倍超。全搬送者に占める10~20代の割合は、同期間に約36%から約53%に増えている。
センターの数字だけを見れば非常に多いとは言えないが、全国的には過剰摂取が若者層に蔓延(まんえん)していることがうかがえる。政府は早急に全国調査を行い、実態を把握すべきである。
ODは呼吸困難や心臓停止などを引き起こし、最悪の場合、死に至ることがある。肝臓や腎臓、脳などに重い障害を残す恐れもあるから深刻な社会問題である。また、弊害は急性薬物中毒だけではない。
孤独感、不安、つらさを紛らわそうとして薬に頼っていると、薬物依存症に陥ることはよく指摘されることだ。耐性ができてさらに強い刺激を求め、大麻などに手を出すことにもつながる。医師が処方した向精神薬の服用でも、一歩間違うと違法薬物の入り口(ゲートウエードラッグ)になることを、教育現場だけでなく社会のさまざまな場で伝える必要がある。
自傷や自殺未遂といった自損行為にも関連しているため、こうした面からの対策も重要だ。総務省消防庁のデータでは、自損行為で緊急搬送された人は昨年、約4万4000人だった。近年は特に若い女性で増加が目立つ。政府の別の統計では、全体の自殺者は減少する一方、若い女性の自殺が増え続けている。OD対策は自殺防止の一環としても重要である。
薬を本来の用途ではなく、孤独感から逃れたり、気持ちを変えたりする目的で摂取するODでは、SNSで不正購入した医師処方の向精神薬のほか、市販薬が使われるケースも少なくない。消防庁のデータでは、自損手段としてのODのうち約8割が処方薬を用いていたが、若い世代では市販薬が使われることが多い。店頭に並ぶ咳(せき)止めや風邪などの薬には、大量に摂取すると中枢神経に作用して高揚感や浮遊感をもたらす成分が含まれているものがあり、乱用の要因となっている。
購入管理にマイナ活用を
このため、18歳未満への特定の市販薬販売を小容量の1箱に制限する改正法が今年5月に施行された。販売者には、購入者に対して他店での購入状況を確認することも義務付けられた。しかし、口頭での確認は十分ではない。ドラッグストアでは、自社の会員カードで購入履歴を確認し、他店舗を含めた複数購入を防ぐシステムの構築が進むが、異なるチェーン店での購入歴の把握に課題が残る。市販薬もマイナンバーカードを活用した購入管理を検討すべきだろう。







