
米国とイランが戦闘終結に向けた覚書を19日にスイスで正式に署名する。2月末からの中東情勢の緊張が長期化する最悪の事態は回避された形だが、これが一時的な緊張緩和に終わることなくホルムズ海峡を通航するすべての船舶の安全が確保されることを期待したい。
60日間で核問題協議
合意する覚書の全容は明らかになっていないが、戦闘終結に向けて60日間停戦を延長し、米国はイランに対する海上封鎖を解く。イランは事実上の封鎖措置を取っているホルムズ海峡を全面開放し、最初の60日間は通航料を徴収しない。60日の間にイランの核問題を協議する。
また、イラン再建に向けて3000億㌦(約48兆円)規模の基金創設やイランの在外資産の凍結解除などが検討されているもようだ。これらは戦闘停止と合わせて、米国とイランで立場に隔たりのある核問題などの協議を巡る交渉材料になるとみられ、なお流動的だ。
2月末に米イスラエルが「壮大な怒り」作戦を進め、イランの最高指導者のハメネイ師をはじめとする国家指導者を標的とした斬首作戦、核施設や軍事施設などへの攻撃に踏み切ったのは、イランの核兵器保有の道を完全に断とうとしたものだ。イスラエルのネタニヤフ首相は核兵器保有宣言をした北朝鮮を引き合いに出し、核兵器保有を許してしまえば手遅れになるとしてイラン攻撃を正当化した。
イランにはナタンズ、フォルドゥのウラン濃縮施設などの核施設が地中深く築かれており、米イスラエルの攻撃で一部損壊したものの再建される可能性がある。さらにイランにはウラン鉱山があり、ウランを採掘・精錬する設備がある。自力で核武装できる点が最大の脅威だ。
米国は高濃縮ウランをイラン国外に搬出し廃棄することを求める一方、イランは国内での低濃縮化を主張する。低濃縮ウランは核兵器にすることはできないが、大量に保有した場合は数週間で核兵器に必要なレベルの高濃縮ウランに加工することができる。このため、イランが原子力発電のための平和利用を訴えても、核兵器開発の抜け道になるとの米国や同盟国、イスラエルの懸念は払拭できないだろう。国際原子力機関(IAEA)などの厳格な監視が保障されなければならない。
また、戦闘停止についてレバノンで親イラン勢力のイスラム教シーア派組織ヒズボラと対峙(たいじ)するイスラエルは反発し、レバノンに侵攻したイスラエル軍の駐留継続を表明した。停戦を巡ってはレバノン戦線の扱いが一つの焦点になっている。今回の戦闘の端緒はパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスによるイスラエル襲撃だ。イランはハマスやヒズボラへの支援を断つべきだ。
賢明な選択で成果を
戦闘終結合意をトランプ米大統領が公表すると、国際原油価格が急落し、米国や日本の株式市場の平均株価は高値更新を続けた。世界の原油・天然ガスの供給ルートの要衝となるホルムズ海峡の安定は世界経済に影響する。賢明な選択で、戦闘終結合意覚書によって始まる協議に成果をもたらしてほしい。






