トップオピニオン社説トキ放鳥 復興の象徴以上の存在に

トキ放鳥 復興の象徴以上の存在に

田んぼの上を舞うトキ
田んぼの上を舞うトキ

 国の特別天然記念物トキの本州初の放鳥が、石川県羽咋(はくい)市で行われた。

 能登半島地震からの復興のシンボルとなることが期待されているが、過疎化が進む地方の再生のモデルにもなり得る。

能登で本州初の実施

 トキはかつて日本の農村や里山では身近な鳥だった。しかし明治以降、狩猟による乱獲や、農薬による生息環境の悪化などで激減。1970年には石川県穴水町に生息する本州最後のトキが、新潟・佐渡島に送られて繁殖が試みられたが失敗した。2003年には佐渡トキ保護センターで飼育されていた最後のトキが死に、日本産トキは絶滅した。

 一方で1999年、中国から提供を受けたペアの繁殖に成功。2008年に佐渡島で放鳥が開始され、現在500羽近くが野生で生息するに至った。

 環境省は感染症への対策から佐渡島のほか、東京都、石川県、島根県などの施設でトキを分散飼育し、本州でも野生化を進める計画だ。本州初の放鳥・野生復帰の地として、減農薬による米作りなどトキの野生化のための環境整備に努めてきた能登が選ばれた。

 今回は佐渡トキ保護センターで飼育され、野生復帰のための訓練を受けたトキ18羽が移送され、8羽が放鳥された。残りの10羽は仮設ケージで2週間ほど環境に慣れさせ、自発的に飛び立つのを待つ。9月には中能登町、来年6月には島根県出雲市でも放鳥が予定されている。

 記念式典では、秋篠宮殿下が「放鳥が復興のシンボルとして希望をもたらすことを願っております」とあいさつされた。過疎化が進む能登は地震が追い打ちをかける形となり、人口減が加速している。農林水産業や観光業が中心の地域で、里山里海の豊かな自然を生かすことが復興ビジョンの核となる。

 トキの野生化は、生息できる自然環境の再生なくしてはあり得ない。成功させるには、能登で減農薬による米作り、餌場の造成、ビオトープ(生物群の生息場所)の整備など環境づくりをどれだけ広げるかが課題となる。能登におけるトキはまさに復興のシンボルであり、それ以上の存在と言える。

 石川県は能登半島地震からの復興について、過疎に悩む地方の再生のモデルケースにしようと創造的復興を掲げている。トキの野生復帰に象徴される自然の再生・共生を柱にした復興を進めるべきだ。

 野生化を巡っては、佐渡島の貴重なノウハウを本州においても展開することが求められる。佐渡では減農薬栽培の米をブランド化している。

 能登でも、この秋には減農薬栽培の認証ステッカーの張られたブランド米が販売される予定だ。このようなブランド戦略は地方創生の要である。

子供への教育効果も期待

 羽咋市ではトキが定着するため、見つけても近づかない、大きな声を出さない、餌を与えないなど、共生のためのマナー啓発にも力を入れている。子供たちはトキとの共生を通して自然や野生動物に関する学習を行っている。教育面でも大きな効果を期待したい。

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