トップオピニオン社説阿部監督辞任 空気に流されてはいまいか

阿部監督辞任 空気に流されてはいまいか

 プロ野球・読売巨人軍の阿部慎之助監督が、18歳の長女への暴行容疑で逮捕されたことを受け、辞任した。阿部氏は容疑を認め釈放されたが、今後は在宅で捜査が進められる方針だという。誰が相手であっても暴力は許されない。

保留の選択肢なかったか

 阿部氏は現役時代、巨人の正捕手として長年チームを支え、多くのファンを魅了した。監督就任後も厳しい姿勢でチーム改革に取り組み、球団再建への期待を集めていた。それだけに、今回の不祥事が球界に与えた衝撃は大きい。

 社会的影響が極めて大きく、責任を問われるのは当然だ。辞任の申し出はやむを得ない判断だろう。ただ、詳細がまだ明らかになっていない中、断定的な言説や人格否定にまで発展する現状は避けなければならない。

 辞任の意向を受け、巨人軍の山口寿一オーナーは「監督を続けることは許されない」とコメントした。球団は、十分な説明を受けた上で、全容が分かるまで謹慎処分とし、辞任届の受理を保留する選択肢もあったのではないか。誹謗(ひぼう)中傷問題に詳しい著述家の加藤文宏氏は、「漠然とした空気で球団が毀損(きそん)されるという不安」からの言動ではないかと自身のX(旧ツイッター)で批判している。

 長女と次女のけんかが問題の発端だった。阿部氏が仲裁に入った際、長女の襟元をつかんで投げ飛ばすなどの暴行を加えた。事件当時は酒を飲んでいたという。幸いけがはなかったが、長女は、生成AI(人工知能)の「チャットGPT」に「父親から暴力を受けたがどうしたらいいか」と質問したところ、「児童相談所に連絡してください」と回答したので連絡した。児相が警視庁に通報すると署員が駆け付け、阿部氏は暴行容疑で現行犯逮捕された。

 いきなり警察に連絡することは心理的ハードルが高くても、児相は比較的アクセスしやすいと言える。最近は児相と警察が密接に連携しており、児相が緊急性が高いと確認できれば警察に連絡する。これまで阿部氏を巡る相談歴はなく、長女は声明で「父とのこのような大がかりなけんかは初めて」と発表している。緊急の状況と判断されるのか疑問だ。

 児相は、5月中旬に明るみに出た東京都町田市の児童監禁虐待事件で、通報が入ってから48時間以内に安全確認しなければならないルールを守っていなかったとして批判を浴びたばかりだった。すぐに警察に通報したのはこうした事情があったからではないか。どの家庭でも起こり得る家族内トラブルで現行犯逮捕に至るのは異例だ。児相から通報を受けた警視庁も十分な聴取を行ったのか疑問が残る。

マニュアル通りの判断か

 長女がAIに相談した上で、児相と警視庁がガイドライン通りに動いた結果、逮捕に至ったのだろうが、当事者が冷静に考えれば違う結果になっていたかもしれない。

 世の中の空気に左右されないことが大切だ。AIやマニュアルに過度に依存せず、それぞれが思慮を巡らせた上で行動することで住みよい社会になるのではないか。

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