南極の平和利用など国際的な取り決めを定めた南極条約の運用を議論する第48回協議国会議が広島市で開かれている。南極でも温暖化による氷床溶解が進み土壌の露出地帯が広がり、科学技術の発達も相まって人の往来も増えている。地球規模の気候変動による生態系への影響は抗し難いが、各国の活動が平和目的に限定されるように、また人為的要因による環境破壊を防ぐようにすべきだ。
日本で32年ぶり3回目
南極大陸の面積は約1400万平方㌔㍍でオーストラリア大陸の2倍弱の広さだ。氷に閉ざされた居住限界地であることから、領有を認めず、軍事基地の設置や軍事演習を禁止し、科学調査の自由、平和目的に限定した活動を謳(うた)う南極条約を各国が締約し得たと言えよう。
同条約は1959年に採択されたものだ。58の締約国のうち南極に近いアルゼンチン、豪州や歴史的に南極探検を進めた英国、ノルウェーなど領有権を主張する国もある。しかし、同条約が有効であるうちは領有権主張は凍結されている。逆に見れば同条約が形骸化してしまえば、基地を拠点に事実上の治外法権となり領有化されかねない。
このため条約を機能させる会議は重要である。南極で積極的な調査活動を行う29の協議国が持ち回りで会議をしているが、日本では94年の京都会議以来32年ぶり3回目の会議だ。わが国の南極観測は56年の観測船「宗谷」の派遣に始まり、57年には昭和基地を開設。科学分野における戦後復興の一幕として話題となり、基地に残された樺太犬のエピソードは後に映画「南極物語」(83年)になるなど、かつての関心は高かった。
だが近年、強い関心を示しているのは中国だ。85年に初の基地を設けた後発組だが、最近も2024年に5カ所目の基地として80人滞在できる秦嶺基地を設けている。また、2番目に開設された中山基地では衛星ネットワークシステムを構築しており、通信傍受など軍事利用し得る「デュアルユース(軍民両用)」について米国のメディアや戦略国際問題研究所(CSIS)などが強い警戒感を示した。
被爆地でもある広島市で開催されている会議では「平和目的」が強調されており、主催国のわが国は「透明性の向上」をテーマに掲げている。情報共有を同条約は掲げており、締約国に年次報告を課しているが十分に徹底されていない。また同条約7条は各締約国の査察権を認めており、「完全な自由」をもって他国の基地や施設を立ち入り検査できることになっている。これらをどこまで実効性のあるものにできるかが課題だ。
厳格な環境基準設けよ
また、南極を訪れる観光客は近年10万人を超えるようになっており、30年で10倍以上に増えている。大半は上陸観光であり、観光客の靴底や衣服に付着する微生物、ウイルス、植物の種子などが生態系に影響を及ぼす可能性がある。万一、船舶の事故で燃料漏れがあれば、海水が低温で油が分解されにくいため環境への影響は極めて深刻になるとみられている。人数、船舶、接岸設備などに厳格な環境基準を設けるべきだ。





