工作機械大手、牧野フライス製作所へのTOB(株式公開買い付け)を計画していたアジア系投資ファンドのMBKパートナーズは、日本政府から外為法に基づく中止勧告を受けたと発表した。
政府は牧野の高性能な工作機械が軍事転用される可能性があり、安全保障上の懸念があると判断したという。日本の安全を守る上で妥当な判断だ。
牧野の技術流出に危機感
MBKは2005年に設立され、日本や中国、韓国の企業を中心に投資を行っている。今月22日付で勧告を受領しており、5月1日までに勧告を受け入れるかどうかを判断しなければならない。買収計画は牧野の株式を100%取得する完全子会社化で、勧告を拒否すれば中止命令が出される見通しだ。一方、新たな買収候補として、日系ファンドの日本産業推進機構(NSSK)が浮上している。
外為法では、国の安全に関わる技術などの流出を防ぐため、外国投資家が日本企業に投資する際の届け出を義務付け、財務省などが審査している。過去に中止勧告が出されたのは英投資ファンドが電源開発(Jパワー)の株式を買い増そうとした08年の1例のみ。電力の安定供給や原子力政策に対する悪影響への懸念によるものだった。
17年には、軍事転用できる高度技術の海外流出を防ぐため、改正外為法が施行された。今回の中止勧告は施行後では初めてで、政府の強い危機感の表れと見ていい。工作機械は軍用にも民生にも利用可能な「デュアルユース技術」を含んでおり、届け出が必要な「コア業種」に該当している。
ただ日本は米国などと比べ、審査が甘いと指摘されている。海外からの投資は出資元が判然としないケースが少なくないが、従来の審査はインテリジェンス(情報収集、分析)能力の弱さがあった。
外為法を巡り政府は、外国政府の指示を受けて指定業種企業に投資する日本国内の投資家にも、届け出を義務付けるための改正案を今国会に提出した。審査の実効性向上を図るものだ。また、外資による投資を省庁横断的に審査する新たな会議体「対日外国投資委員会(日本版CFIUS)」設置のための内容も盛り込むなど規制強化を進めている。
米政府は、外国企業による対米投資が安全保障上の脅威となるかを審査する「対米外国投資委員会(CFIUS)」を設け、問題があると判断すれば大統領に阻止や一時停止を勧告できる。日本製鉄によるUSスチール買収の際にはCFIUSが審査を行った。
新体制で経済安保強化を
財務省や経済産業省、国家安全保障局(NSS)などで構成される日本版CFIUSは、自民党と日本維新の会の連立政権合意書に創設方針が盛り込まれた。安全保障関連部局との連携強化によって審査を厳格化する狙いがある。
今回の中止勧告も、こうした規制強化の流れの中にあるものと言えよう。日本版CFIUS創設による新たな審査体制を経済安全保障の強化につなげる必要がある。





