台湾最大野党・国民党の鄭麗文主席が中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。会談では「台湾独立反対」が確認され、「対話による戦争回避」が強調された。しかし、この宥和(ゆうわ)政策的な演出を額面通りに受け取ることはできない。中国が長年進めてきた台湾内部の分断工作が、より巧妙な形で進行していると見るべきである。
影響力拡大狙う優遇策
台湾の頼清徳総統は就任演説で「台湾は中国に隷属しない」と明言し、防衛力強化を掲げた。これに対し中国は、台湾攻撃を想定した軍事演習を繰り返し、武力行使も辞さない姿勢を示している。こうした緊張の最中に習氏が鄭氏を迎え入れたことは、台湾社会に「対話路線」を浸透させ、民進党政権の安全保障政策を揺さぶる意図があると考えるのが自然だ。
習氏が鄭氏との会談で発表した台湾向けの優遇策は、農水産物の輸入促進、個人旅行の再開、台湾ドラマの放映許可など10項目で、一見すると友好的に映る。しかし、台湾の経済における対中依存を増やし、政治的影響力を拡大するための手段であることは否定できない。優遇策が国民党の実績として作用し、中国の政治工作が台湾社会に直接流入して政治・経済への干渉が強まる危険性がある。
さらに、次期総統選挙を見据え、中国が親中派政権の誕生を後押しする可能性は高い。習氏が唱える「両岸の団結」は「台湾統一」と同義語と言えよう。頼政権・民進党側が、鄭氏の訪中について「優遇政策は台湾社会を分断する選挙介入につながる」「国民党は中国の統一戦線工作に利用されている」などと批判するのは当然である。
中国は近年、海洋進出や空母などによる威嚇行動など、軍事的圧力を強めてきた。こうした「力による現状変更」を続ける国が、台湾の中で国民党主席の鄭氏に対してのみ「平和的対話」を唱えること自体が矛盾している。中国人観光客増加も中国による台湾社会への影響工作を強めるリスクを伴う。
また鄭氏は、訪中に際して尹力北京市共産党委員会書記と会談し、日中戦争や日本の台湾統治が終わった「台湾光復」などの歴史を通じた交流を持ち掛けている。国民党はもともと第2次世界大戦後の国共内戦で中国共産党に敗れ、敗走先の台湾を支配した。
今になって国民党が「抗日」で共産党と協力した〝国共合作〟を回顧するのは、共産党が規約に謳(うた)う「台湾同胞」を含めた「全国人民の団結」の方向に向かわないか懸念せざるを得ない。国共合作は劣勢だった共産党軍の時間稼ぎであり、その後、国民党軍が敗北した。食うか食われるかの駆け引きだ。
台湾は1996年の総統選挙によって民主主義を確立して以降、国民党と民進党が政権交代を繰り返してきた。中国の共産党一党独裁とは根本的に異なる政治体制を築いている。
政治的意図を見誤るな
現在の中国が追求するのは台湾との「協力」ではなく「統一」であり、はなから台湾の主権を認めていない。台湾社会は、中国が示す優遇策の裏に潜む政治的意図を見誤ってはならない。





