日本人にとって「姓」はどんな意味を持つのか。「家族」は社会にどう意義付けられるのか。そんな本質的な論議を期待するが、政治やマスコミにはその点が物足りない。
現行の「夫婦同姓」を維持するのか、それとも「選択的夫婦別姓」(夫婦別姓)を導入するのかの議論のことだ。政府は第6次男女共同参画基本計画に、結婚しても公的書類などの「旧姓単記」(旧姓のみの記載)を可能とする法整備について明記し、今国会中の関連法案提出を目指すことにした。
別姓法案は1月廃案に
戸籍上の姓を夫婦で同じにする現行制度には、家族の結び付きを公証する役割がある。その背景には、自然な家族は社会の基本的な単位だから、その絆が強く結ばれることは社会の安定的な発展に欠かせない、との考え方がある。
ただ、結婚で改姓するのは9割以上が女性だ。多くの女性が企業などに勤める現在、改姓によって不便を背負うのは女性が圧倒的に多く、キャリア断絶などにもつながる。そんな理由から、結婚後も旧姓のままでいられる夫婦別姓を選択できる制度の導入を主張する勢力がある。左派政党や日本労働組合総連合会(連合)はその代表的存在だ。
夫婦同姓制度を続けるのは日本だけだから、制度変更は時代の要請だとの意見もある。こうした意見は家族制度を表面的に捉えている証左である。姓や家族のあり方は、その国の歴史や文化と深く関わっている。「海外を見よ」というのはあまりに短絡的だと言わざるを得ない。
夫婦同姓か別姓かの論議が続く現在は、日本人にとって姓や家族がどんな意味を持つのか、ひいては「百年の計」としての国家像を考えさせる絶好の時である。家族の絆は、働く意欲にも良い影響を与える。女性の不便解消は大事だが、経済界にはもっと広い視野から姓のあり方を考えてもらいたい。
昨年の国会には、立憲民主党と国民民主党が夫婦別姓導入のための法案を提出した。一方、日本維新の会は、戸籍に婚姻前の姓を記載して旧姓使用に法的効力を持たせ、住民票、運転免許証、パスポートなどの公的書類の旧姓単記を可能にする法案を提出した。いずれも審議入りしたが、今年1月の衆院解散で廃案になった。
かねて夫婦別姓に反対を明言している高市早苗首相は、結婚後の旧姓の通称使用拡大に意欲を示している。公的書類などの旧姓単記を可能とする法整備はその方針に添ったものだ。
だが、単記可能な範囲については検討が必要だ。住民票、運転免許証なども含め、戸籍以外の全ての公的書類で旧姓単記になると、本人確認に手間がかかり、混乱が生じる懸念がある。
伝統損なわない法整備を
また、夫婦同姓の本質が家族一体感の法的公証だとすれば、旧姓単記の無原則な拡大は実質的な夫婦別姓となり、「家族の呼称」(ファミリーネーム)としての姓の意義も消えてしまう。それでは家族の一体感が弱まることは避けられない。改姓による不便解消を図りつつ、家族を大切にするわが国の伝統を損なわない法整備を行うべきである。






