トップオピニオン社説ロシアのスパイ 防止法の制定が急がれる【社説】

ロシアのスパイ 防止法の制定が急がれる【社説】

在日ロシア通商代表部=13日、東京都港区

 首都圏の工作機械関連会社の営業秘密を漏洩(ろうえい)したとして、警視庁公安部は不正競争防止法違反(営業秘密の開示)容疑で、いずれも30代の在日ロシア通商代表部の元部員の男と、同社元社員の男を書類送検した。

 民間企業の先端技術を狙う海外のスパイの脅威が高まっている。スパイ防止法の制定が急がれる。

ウクライナ人装い接触

 元部員は「ロシア対外情報庁」(SVR)のメンバーとみられ、昨年3月に出国したとされる。SVRは国際諜報(ちょうほう)を担う情報機関で、旧ソ連の国家保安委員会(KGB)が分割されて設立された。

 元部員は2023年4月の来日直後、ウクライナ人を装い、道を尋ねるふりをして元社員に接触。「お礼がしたいからまた会いましょう」などと言って定期的に面会を重ねた。ウクライナ人のふりをしたのは、ロシアに侵略されるウクライナへの日本人の同情心に付け入るためだったと考えられる。卑劣極まりない手口だ。

 面会は約10回に及び、元社員は情報の見返りとして飲食接待や総額約70万円の現金を受け取るなどしたという。この会社が保有する先端技術には軍事転用可能なものも含まれていた。

 2人は電話やメールでは連絡を取り合わず、全て口頭でやりとりし、面会した際に次の約束を取り付けていたとみられる。これも、痕跡を残すことを嫌うロシア機関員の常套(じょうとう)手段だ。

 ロシアによるスパイ事件の摘発は、1991年のソ連崩壊後では計11件に上る。警視庁は2020年1月、ロシア通商代表部の職員らに唆され電話基地局などの社外秘文書を取得したとして、通信大手ソフトバンク元部長を逮捕。21年6月には神奈川県警が、データベースサービス会社から不正に軍事関係の文献を入手し、ロシア通商代表部員に渡した疑いで、元調査会社の経営者を逮捕するなど、摘発が相次いでいる。

 このほか、中国への情報流出も目立つ。大阪府警は20年10月、スマートフォンのタッチパネルに使われる技術情報を中国企業に漏らしたとして積水化学工業元社員を書類送検した。23年6月には、国立研究開発法人「産業技術総合研究所」の研究情報を中国企業に漏洩したとして、中国籍の研究員を逮捕した。日本で活動する海外のスパイは近年、民間企業の先端技術を狙うことが多い。

 企業の営業秘密の外部流出を防ぐため、政府は15年7月、不正競争防止法を改正し、罰金刑の上限を個人は1000万円以下から2000万円以下に、法人は3億円以下から5億円以下にそれぞれ引き上げた。また昨年5月には、経済安全保障上の重要情報を指定し、その情報を取り扱える人物を政府が認定する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度が始まっている。しかし、これだけで十分とは言えない。

建設的な議論を期待

 重要情報を守るには、スパイ行為そのものを取り締まるスパイ防止法や、同法を根拠とする本格的な防諜機関が必要だ。

 スパイ防止法制定に向けた建設的な議論を期待したい。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »