
2022年7月、奈良市で選挙遊説中に安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で殺人などの罪に問われた山上徹也被告に、奈良地裁は求刑通り無期懲役を言い渡した。
最大の争点は、母親が入信する世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に関わる被告の不遇な生い立ちが、量刑にどれだけ反映されるかであった。判決が被告の生い立ちについて「(事件発生に)大きな影響を及ぼしたとは認められない」としたのは、妥当な判断だ。
生い立ちの影響認めず
一方、被告の犯行は、参院選の応援演説を行っていた安倍氏を手製銃で襲撃するという、民主主義の根幹を揺るがすものであった。「本筋ではない」とする安倍氏を殺害することで社会に衝撃を与え、教団への批判を巻き起こして教団に「一矢を報い」ることを企図した犯行は、テロ以外の何物でもない。判決は悪質な殺人として裁いてはいても、テロ事件としての本質に踏み込んだとは言えない。
公判で弁護側は、被告の家族や宗教学者を証人に立て、母親が旧統一教会に入信し多額の献金を行ったことが子供に対する「宗教虐待」であるとし、情状酌量を主張した。
被告の生い立ちについて判決は「不遇な側面が大きい」とし、「兄の自殺に大きな衝撃を受け、教団に対して抱いていた複雑な感情が激しい怒りに転じたこと自体は理解が不可能とは言えない」としつつも、「殺人行為を決意し、手製銃の製造を計画し実行するという意思決定に至ったことについては、大きな飛躍があったと言わざるを得ず、生い立ちの影響を大きく認めることはできない」とした。
標的を教会幹部から安倍氏に変更したことも「最終的には経済状況が逼迫(ひっぱく)し、これ以上待てないという自身の都合を優先させて襲撃を決意した。短絡的で自己中心的な意思決定過程についても、生い立ちの不遇性が大きく影響したとみることはできない」との判断を示した。
事件は当初から山上被告の単独犯行として捜査・起訴され、裁判では弁護側も事実関係は争わず、被告も認めた。しかし、単独犯説にはさまざまな疑問が残されている。安倍氏の救命治療に当たった奈良県立医大付属病院の福島英賢医師の心臓に大きな損傷があったとする所見と、その後行われた奈良県警の司法解剖の所見が大きく食い違っている。また致命弾が見つかっていないという情報もある。
これらはいわゆる「陰謀論」ではなく、合理的な疑問だ。公判で解かれることが期待されたが、解剖医のみが証言し、福島医師の証言は行われなかった。疑問が払拭されるどころか、さらに増したと言える。
事件5日前に標的変更
被告はもともと教団幹部の襲撃のために借金をしてまで手製銃を製造していた。本来は「敵ではない」安倍氏に標的を変更し行動を開始したのは犯行の5日前であった。
ここにも大きな「飛躍」があった。その飛躍は、本当に経済的な逼迫だけが理由だったのだろうか。被告が真実の全てを語っているとは限らない。飛躍の背景の解明が求められる。






