トップオピニオン社説NHK次期会長/公共放送の原点に立ち返れ【社説】

NHK次期会長/公共放送の原点に立ち返れ【社説】

 NHK経営委員会が、来年1月に任期満了を迎える稲葉延雄会長の後任に、井上樹彦副会長が昇格する人事を決定した。18年ぶりの生え抜き会長だが、前途は多難だ。

テレビ離れで厳しい経営

 NHKでは2004年、番組制作費着服やカラ出張、横領、取材費水増し請求などの不祥事が次々と判明。08年就任の福地茂雄氏(元アサヒビール社長)から6代連続で外部の人材を会長に起用したのは、抜本改革や信頼回復を進める必要があったためだ。

 一方、政治部出身の井上氏が今回、会長に選ばれた背景には、NHKを取り巻く経営環境の厳しさがある。23年10月に受信料を1割値下げした影響で、NHKは24年度まで2年連続の赤字に陥った。その上、人口減少やテレビ離れに伴う契約件数の低迷や人材不足などにも直面している。

 NHK経営委の古賀信行委員長は、井上氏の選出理由について「NHKの現状をきちんと見ている人を選んだ」と語った。井上氏は「人材の確保と受信料収入の下げ止まりを何としても実現する」と抱負を述べたが、インターネットによる動画視聴が普及し、テレビの存在感が薄れる中、受信料未払い増加などの課題が山積している。

 問題は経営面だけではない。NHKは「公共の福祉と文化の向上に寄与することを目的に設立された公共放送事業体」(NHKホームページ)だが、このような役割を果たしているか疑問を抱かせるような番組も少なくない。

 今年8月に放送されたドラマ「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」は、登場人物のモデルになった軍人が事実に反する卑劣な人物に描かれたとして、軍人の孫が「歴史歪曲(わいきょく)」と抗議。放送倫理・番組向上機構(BPO)に審議などを求める要望書を提出する事態となった。NHKが事実よりも「軍人イコール悪」というイメージに重きを置いてドラマを作ったのであれば、視聴者のNHK離れを加速させるのではないか。

 また昨年8月には、ラジオ国際放送などの中国語ニュースで原稿を読んでいた中国籍の外部スタッフが、沖縄県・尖閣諸島について「中国の領土である」などと述べる「放送乗っ取り」が起きた。「わが国の重要な政策および国際問題にたいする公的見解」を正しく伝えるとしているNHKの国際番組基準を踏まえれば、重大な不祥事だと言わざるを得ない。

 この件で総務省は、NHKに文書で注意する行政指導を行った。稲葉氏は、23年1月の会長就任後に「NHKはリスクに若干鈍感な面があるのでは」と感じたと述べている。こうした指摘を井上氏は真摯(しんし)に受け止め、局内の危機意識向上に努めなければならない。

偏りのない良質な番組を

 井上氏は「ネットが主体の時代でも、NHKが必要だと思ってもらわないといけない」とも強調した。

 そのためには、偏りのない番組制作が不可欠だ。視聴率に振り回されず、良質な番組を提供する公共放送の原点に立ち返ってほしい。

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