
クマによる人身被害が史上最悪レベルで起きている。市街地のスーパーや学校近くなど、人間の生活圏にまで出没する異常事態となっている。
人身を守るための緊急措置とクマ被害を減らす中長期的な施策が必要だ。
ブナ凶作で出没増加
今年に入ってからのクマによる人身被害は、全国で200人近くに達し、死者は10人を超え史上最多となっている。秋田、岩手、福島など東北地方が特に多いが、東北地方ではクマのエサとなるブナの凶作が、出没が増えた原因の一つとみられる。
しかしこれまでと違うのは、クマが人間の生活圏に頻繁に出没するようになったことだ。秋田市などは街のどこにでも出るような状況となっている。住民は日々怯(おび)えながら暮らし、農家ではこの秋の収穫を諦めたところもあるという。これから紅葉シーズンを迎える観光地でも、影響が出ている。
これまで保たれてきたクマと人間のすみ分けが崩れつつあると言える。過疎化によって、人が生活しなくなった中山間地域や放置された里山にクマが入り込み、市街地との緩衝地帯がなくなったことが最大の原因だ。
またクマ被害が東北地方で突出し、西日本で少ないのは、西日本では個体数の管理が行われているのに対し、東北ではそれが遅れ、個体数が想定以上に多くなっている可能性が高いとの研究者の指摘がある。
個体数が多ければ、エサを巡る争いに負けた子連れのメスなどが人里にやって来る。子連れのメスは凶暴で人を襲うケースが増える。
政府は先月末、関係閣僚会議を開き、今月中旬までに「クマ被害対策施策パッケージ」を取りまとめる方針だ。現在起きている被害への緊急の対処策とともに、来年以降を見据えた中長期的でより抜本的な施策を打ち出すべきだ。
中長期的な対策としては、まずクマの個体数を正確に把握し、それを基に保護と安全のため適正な個体数を管理する必要がある。さらに過疎化が進む中山間地域や里山を再生させ、緩衝地帯として機能させるべきだ。人口減少や高齢化など社会構造の変化が根底にあり簡単ではないが、長期的な視野での対策が求められる。
秋田県では陸上自衛隊が支援に出動する。駆除には直接関与しないが、箱わなの運搬やクマの輸送などの後方支援を行う。
自衛隊はこれまで、訓練の一環としてエゾシカやニホンジカ被害対策の支援で出動した事例がある。災害レベルの異常事態に置かれている秋田県では、マンパワー不足を補うために自衛隊に頼るしかない状況だが、自衛隊の本務は国防であり、無制限に支援要請に応えることはできない。
若手ハンターの育成を
人の生活圏に侵入したクマを市町村の判断でハンターが猟銃で駆除できる「緊急銃猟」が導入されたが、ハンターの多くが高齢で人数が少ないという問題がある。今後、長期的なクマ対策を考えた場合、鳥獣保護管理の担い手となる若手ハンターなど人材の育成、確保が重要になってくる。





