きょうは文化の日。訪日外国人(インバウンド)の数が史上最多の年間4000万人に迫ろうとしているが、多くの外国人を引き付ける日本文化のユニークさとは何かを考えてみたい。
例を見ぬ多様性、重層性
戦後日本は、軍事重視を捨て、平和的な「文化国家」を目指すとした。そこには「武」に対する「文」のニュアンスが強かった。そういう意味で、文化に対する概念が極めて一面的で浅薄なものであったことは事実だ。文化には、民族、国家のアイデンティティーがある。終戦間もない時期、文化国家を語った人々にその自覚があったかはかなり怪しい。
しかし、そういった風潮の中でも、日本の文化は、それ自体が持つ力によって輝きを増してきた。
今年は歌舞伎の女形の世界を題材にした映画「国宝」がヒットし、カンヌ国際映画祭でも上映され話題になった。歌舞伎という伝統芸能の世界を扱いながら、新しい視点でストーリーを展開し、圧倒的な映像美で観客を魅了している。
この映画の成功は、やはり400年近く演じられてきた伝統芸能、歌舞伎があったからこそなし得たもので、そこからさまざまな素材とインスピレーションを得て、現代化することが可能となった。
人気アニメ映画「鬼滅の刃」なども「刀剣」というモチーフが作品の大きな魅力となっている。日本には、創造の源泉となる伝統文化の豊かさがあるが、その多様性、重層性は他の国や地域でも例を見ないものがある。
最も古いものに遡(さかのぼ)れば、世界最古の土器を作り、1万年以上にわたって続いた縄文文化がある。時代が下れば、世界最古の小説と言われる「源氏物語」などを生んだ雅(みやび)な王朝の貴族文化がある。そして武家の時代となって武家文化が生まれ、多くの外国人を引き付けている。さらに江戸時代は、町人文化が栄え、歌舞伎などの芸能、さらに寿司(すし)をはじめとした日本料理が誕生した。
このように日本では、時の権力者が代わっても、古い時代の文化が保存され、あるいは更新されてきた。それは、国の中心に皇室が存在し続けてきたことが大きい。そのような文化遺産を守ることは、新しい創造の泉を生み出すことになる。
マンガやアニメ、映画などのコンテンツがそこから多くの材料を得て、さらにその伝統を掘り下げることから無限のインスピレーションを受け、創造の原動力となっている。
予算の大幅な増額を
しかし、政府の文化予算は約1400億円程度と、フランス約5000億円(2022年)、韓国約2400億円(同)と比べても低い。
戦後、製造業を中心に経済大国となり、世界経済を引っ張ってきた日本だが、これからは文化や観光がより大きな比重を占めるようになる。このような時代の趨勢(すうせい)を視野に入れて文化予算を大幅に増額することが必要だ。幸い豊かな伝統文化と創造性に富んだクリエーターに恵まれた日本文化には大きな可能性がある。世界への発信を後押ししたい。





