トップオピニオン社説米中首脳会談 緊張と妥結で続く実利外交【社説】

米中首脳会談 緊張と妥結で続く実利外交【社説】

30日、韓国南部・釜山での会談後、中国の習近平国家主席(右)に話し掛けるトランプ米大統領(AFP時事)

 トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が韓国・釜山で会談し、中国がレアアース(希土類)輸出規制の導入を1年間延期し、米国は合成麻薬「フェンタニル」関連の対中追加関税20%を10%に引き下げることなどで合意した。緊張をつくり、妥結して得る実利外交は当面の時間稼ぎとして続くだろう。

 トランプ氏が核実験指示

 中国は米国の関税措置に対抗する最大のカードを切っている。米中首脳が韓国で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて会談を行う前の10月9日、中国商務省はレアアースやリチウムイオン電池に関する輸出規制を強化すると発表した。

 中国は世界のレアアース市場の採掘シェアにおいて約70%、精製、加工分野では約9割と圧倒的だ。米国は即座に反応し、トランプ氏が中国に100%の追加関税を課すなどと発表した。会談を前に取り下げられ、会談では中国のレアアース輸出規制は1年延期された。ほかに米国産大豆を中国が大量に輸入し、中国は合成麻薬問題に取り組むことにより関税を10%引き下げられた。トランプ氏は「10点満点で12点」と評価したが、もともと大きな期待はしていなかった表れではないのか。

 米国にとって中国は緊張関係が続いていく相手だ。トランプ氏は、習氏との会談の直前に「戦争省」(国防総省)に核実験の即時開始を指示したことをSNSに投稿した。ここで中国は5年以内にロシアに追いつくほどの核軍拡を果たすと主張し、他国と対等な核実験を行うことを強調している。

 太平洋を挟んで対峙(たいじ)する両国は融和することはない戦略的競合関係にある。中国は世界的覇権を追求しており、巨大経済圏構想「一帯一路」を掲げ、これを力で裏付けるため海軍を増強しての海洋進出が著しい。一方的に「領土領海」を宣言した南シナ海やわが国の尖閣諸島沖には海警局の武装巡視船を派遣しており、国際秩序を乱す「力による現状変更」を行っている。

 また中国は今世紀に入り飛躍的な経済発展、技術革新を果たしてきたが、その多くは米国などから合法非合法に情報を得たところが大きい。中国をはじめとするサイバー・エスピオナージと呼ばれるネットを通じた先端技術の窃取は極めて深刻で脅威となっていることを米政府は指摘している。

 米中関係は敵対的かつ互恵的な複雑性を持つが、米国および同盟国にとっては、増大する中国の国力がいかに地域、ひいては世界の安全を脅かさないように抑制するかが課題になる。中国のレアアース輸出規制は1年延期されただけであり、来年4月にトランプ氏が訪中する際に課題となるだろう。

 民主主義国の連携不可欠

 経済分野の緊張を高めて妥結する繰り返しで現状が維持されれば、少なくとも中国の台湾統一の動きなど現状変更の試みを牽制(けんせい)して時間を稼ぐこともできる。日米首脳会談で結束が図られたが、中国を抑制するには米国をはじめとする民主主義国の多国間の連携が不可欠であり、トランプ氏はそのための努力を惜しんではならない。

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