トップオピニオン社説ノーベル賞受賞 大輪咲かせた原点追求の志【社説】

ノーベル賞受賞 大輪咲かせた原点追求の志【社説】

「制御性T細胞」を発見した坂口志文氏ら3氏へのノーベル生理学・医学賞授賞について記者会見で発表するノーベル委員会関係者=6日、ストックホルム(AFP時事)

 今年のノーベル生理学・医学賞は、免疫反応の暴走を防ぐ仕組みを突き止め、その役割を担う「制御性T細胞」を発見した大阪大の坂口志文特任教授ら日米3氏に、また化学賞は、極小の穴が無数に開いた「金属有機構造体(MOF)」を開発した北川進・京都大特別教授ら日米豪3氏に決まった。日本の自然科学部門のノーベル賞受賞は4年ぶりの快挙だ。

 免疫、素材部門で成果

 坂口氏が発見した制御性T細胞は関節リウマチなどの自己免疫疾患、1型糖尿病やがんの治療などに役立つと見込まれる。人間には体内に侵入したウイルスや細菌などの病原体から身を守る免疫の仕組みが備わっているが、その機能が過剰に働き自己免疫疾患が引き起こされてしまうことがある。

 そこで坂口氏は、体内には免疫反応にブレーキをかける細胞も存在し、その細胞を使えば自己免疫疾患が抑えられると考えた。1995年に制御性T細胞の目印となる分子を見つけ、以後は免疫学の大きな研究テーマへと発展した。

 滋賀県長浜市生まれ。哲学に興味があり、精神医学などを学べる京大医学部に進んだ。その後、研究を深めるために渡米し、米国では財団から支援され自由な研究の場を得た。「世の中の理屈が変わっても、自分の研究の原点に立ち返って再出発してきた」。常に生命の本質を見据え、真理の窓を開いた。

 一方、北川氏が開発したMOFは「多孔性配位高分子(PCP)」と呼ばれ、気体を穴に取り込んで分離、貯蔵することが可能だ。ナノサイズ(ナノは10億分の1)の穴を無数に持つ物質として活性炭が知られるが、北川氏は97年、金属イオンと有機分子を組み合わせたジャングルジムのような構造のMOFを世界で初めて合成した。

 目的に合わせ自由に設計でき、枠の隙間の大きさを変えれば二酸化炭素や酸素など、特定の気体を選び吸着させることも可能で、大気中の汚染物質や石油の不純物を効率的に除去する。次世代エネルギーとして期待される水素の貯蔵、運搬も可能で、その実用化への研究も進められている。

 北川氏は京都市出身。京大工学部に進み、ノーベル物理学賞受賞者の湯川秀樹博士の著書『天才の世界』シリーズに出合う。中国古代の思想家・荘子の「無用の用」という思想も知り、研究者として「新しい分野をつくる」という姿勢を貫いてきた。

 20世紀の自然科学では究極の素粒子を追究すること、また21世紀は分子レベルで生命現象を探ることや新素材の創造が主要なテーマになってきた。日本人研究者らはこれらの分野で、常に欧米の超一流の研究者らに伍(ご)してきた歴史を持つ。

 大いに誇るべきだ。21世紀に入ってから、自然科学部門の国別で日本は米国に続く世界第2位のノーベル賞受賞者数となっている。

 学校教育の大きな指針

 坂口氏は記者会見の中で、子供たちへ「自分は何を知りたいのか、興味を持ち続けることが重要」と助言している。今日の学校教育の大きな指針になり得るだろう。

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