
東急電鉄田園都市線の梶が谷駅(川崎市高津区)で、上りホームに進入してきた普通列車が、停車中の回送列車に衝突して回送列車が脱線した。
けが人はいなかったものの、全線で運転が再開するまで丸1日かかり、通勤・通学客に大きな混乱をもたらした。東急は事故の原因究明と再発防止を徹底しなければならない。
信号の条件設定に誤り
回送列車は見習い運転士が引き込み線を走行中、一定の速度を超えたため、所定停止位置より手前で停車。普通列車の運転士は非常ブレーキをかけたが、間に合わなかった。
事故の詳しい原因究明はこれからだが、東急によれば、信号の条件設定に誤りがあって普通列車の運転台に青信号が表示されていた。このため、衝突防止用の自動列車制御装置(ATC)も作動しなかったという。
この誤りは10年以上も見過ごされていた。長期にわたって危険をもたらしかねない状態だったことになる。今回の事故では、普通列車に乗客乗員151人、回送列車には乗員3人が乗っていた。死傷者がなかったとはいえ、一歩間違えば大惨事となっていた。東急は猛省し、安全管理体制を総点検して対策を強化すべきだ。
一方、事故によって田園都市線と東急大井町線では計1107本が運休し、計65万2100人が影響を受けた。鉄道は社会生活に欠かすことのできないインフラであり、事故などで運行が停止すれば大きな混乱を招くことになる。この意味でも、鉄道事業者の責任は重いと言わなければならない。
今回の事故を受け、中野洋昌国土交通相は「重く受け止めている」と述べた上で「安全安定輸送に向けた必要な指導を行う」と話した。再発を防止するには、国の監督の在り方も問われよう。
乗客106人と運転士が死亡したJR福知山線脱線事故から今年4月で20年を迎えた。この事故は、福知山線の塚口―尼崎間で快速電車が制限速度を大幅に超えてカーブに進入、脱線し、先頭車両と2両目が線路脇のマンションに衝突するという大惨事だった。
事故を受け、国交省は鉄道会社内の安全管理体制構築や自動列車停止措置(ATS)の導入義務化などソフト・ハード両面での安全対策を進めてきた。鉄道事故件数は減少傾向にあり、乗客の死亡事故は福知山線事故と同年の2005年12月に発生したJR羽越線脱線事故以来起きていない。だが、今回のような衝突や脱線、あるいは火災などの重大事故は23年度に9件生じるなど根絶には至っていない。
過去の事故から教訓を
福知山線事故を引き起こしたJR西日本が07年に開設し、事故などの教訓を伝える社員研修施設「鉄道安全考動館」(大阪府吹田市)では、全社員とグループ会社社員が定期的に研修を受けている。
乗客の命を預かる鉄道事業者の第一の使命は安全確保にほかならない。常に安全最優先の原点に立ち返るとともに、過去の事故から教訓をくみ取り、事故の防止や安全な運行に生かしてほしい。





