トップオピニオン社説デジタル教科書 個別最適な学びには不可欠【社説】

デジタル教科書 個別最適な学びには不可欠【社説】

 過度のデジタル化は教育に悪影響があるとしてIT(情報技術)先進国の中には教科書を紙に戻す動きがある。その一方で生まれた時からインターネット環境が整っていた今の児童・生徒たちにICT(情報通信技術)機器は身近な学習用具となっており、使わせない方が間違っているという意見もある。新聞や活字媒体、出版業界などでは、活字を読まなくなるということで否定的な意見も多い。

 紙と同様な位置付けに

 デジタル教科書導入を検討する中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の作業部会が24日開かれた。現在は「代替教材」とされているデジタル教科書を紙と同様に正式な教科書と位置付け、検定や無償配布の対象とすることを盛り込んだ審議まとめが了承された。紙、デジタル、紙とデジタルを組み合わせたハイブリッドの3種類から各教育委員会が選ぶことになる。

 文科省は、次期学習指導要領が小学校で全面実施される予定の2030年度からの適用を想定しており、26年の通常国会で学校教育法などの改正案提出を目指している。

 デジタル教科書は現在、小5~中3の英語と算数・数学の一部に導入され、「あくまでも紙が主、デジタルは副」として併用されている。動画や音声などを用いると、算数・数学の図形の問題や文章題、英語では会話の例や文法の形式などを分かりやすく教えることができる。活用の仕方で紙、デジタルそれぞれに効果を発揮しやすい教科や分野が見え始めている。

 外国にルーツがある子や障害のある子など、学校では多様な特徴のある子が学んでいる。教科書の活字は苦手だが、タイプの異なる活字なら読める。文章になると理解できないが、音声なら理解できる。教科書の文字の後ろの色が白だと落ち着かないが、緑なら落ち着く。大きな文字になら対応できる。学習進度の早い子、遅い子それぞれに合わせた教育・教材も必要になってきている。

 こうした特性の違う子供たちには、従来の一斉授業では対応が難しくなってきている。デジタル教科書が有効だとして19年度から全国の学校で使えるようになった。学習意欲や理解度を高める内容にしてもらいたい。

 検定においてQRコードのリンク先も対象となる。社会科で現地の生産者に質の良いインタビューをするには、経費がかかる。アポイントを取る手間も必要になる。紙の教科書は、質が良く薄くて軽い紙で製本してほしいという要望もある。少子化の影響で出版部数が減り、教科書出版会社も苦しい。コンテンツが多数に上れば検定や採択側の負担も増す。

 子供の学び続ける力に

 デジタル教科書の活用に向けた課題は山積する。紙とデジタルの教科書を上手に使いこなせる教員の育成は急務だ。また、教科書の草稿段階で細かなチェックを入れる検定制度が創造的な教科書を作ろうとする業者の足かせにならないよう配慮することは当然である。個別最適な学びにはデジタル教科書が不可欠である。子供たちには、生き生きとした笑顔で生涯学び続ける力を手に入れてもらいたい。

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