トップオピニオン社説防衛力強化提言 原潜保有で抑止力向上を【社説】

防衛力強化提言 原潜保有で抑止力向上を【社説】

記者会見する中谷元防衛相=19日午前、防衛省

 安全保障関連法の制定から10年となる19日、防衛省が設置する「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」が報告書をまとめ、中谷元防衛相に提出した。報告書は、反撃能力(敵基地攻撃能力)を構成するミサイル垂直発射装置搭載の潜水艦について、原子力潜水艦の導入を視野に入れ、「次世代の動力の活用の検討」も含め研究・開発を行うべきだとした。自らの所在を明らかにしない潜行中の原潜から長射程のミサイルを発射することが可能になれば、わが国の抑止力向上にも寄与する。

 「法に抵触せず」の答弁も

 海上自衛隊の潜水艦部隊は高い技量と練度を誇り、世界有数の実力を有するが、蓄電池を動力とする在来型の潜水艦しか保有していない。そのため中国海軍の急速な増強拡大で、その優位が揺らいでいる。長期間潜行しての隠密作戦行動が可能な原潜の導入は、潜水艦の能力や隻数での劣勢をカバーすることにも繋(つな)がる。

 自衛隊の原潜保有は非核三原則や原子力基本法との関連が問題とされる。しかし「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則の「核兵器」とは「原子核の分裂または核融合反応により生ずる放射エネルギーを破壊力または殺傷力として使用する兵器」(昭和50年1月10日政府答弁書など)を意味し、推進力の利用は含まれない。

 原子力基本法は「原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限」る(2条)と規定し、自衛隊が殺傷力や破壊力として原子力を用いる核兵器を保持することは認められず、昨年9月には林芳正官房長官が「現行解釈上、原潜保有は難しい」との見解を示した。だが「船舶の推進力として原子力が用いられる(ことが)……一般化した場合には差し支えない(同法に抵触しない)」(昭和46年3月10日西田信一科学技術庁長官)との政府答弁もある。

 列国が保有する潜水艦をはじめ船舶が推進力に原子力を用いることは既に一般化しており、自衛隊の原潜保有は原子力基本法に抵触しないと解釈すべきである。必要なら同法の改正も検討しなければならない。

 中国海軍は沖縄から台湾、ボルネオ島を結ぶ第1列島線からグアム、サイパンなどが位置する第2列島線へと活動領域を拡大し、さらに3隻目の空母の実戦配備も近い。これに対し、西太平洋における米海軍のプレゼンスは後退する傾向にある。

 日本周辺海域およびわが国の生命線である中東からのシーレーン(海上交通路)を守り抜くには、わが国の海上防衛力の早急な強化が必要不可欠である。その一環として今回の提言を踏まえ、原潜の開発・保有に筋道を付けることが次期政権の重要な責務である。

 厳しい情勢に早期対処を

 このほか報告書は、防衛装備移転三原則に基づく装備品輸出を現行の5類型から拡大することなど内容は多岐にわたるが、いずれも現在のわが国防衛体制の足らざるを補い、また防衛力の強化を促すものである。

 厳しい国際情勢に対処する時間的余裕は失われつつある。一刻も早い防衛力の強化が求められる。

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