
米ユタ州の大学で公開討論中だった保守活動家のチャーリー・カーク氏が、聴衆の目の前で銃撃され命を奪われた。大学での開かれた対話の場で起きた暴挙は、言論の自由そのものへの挑戦だ。逮捕されたタイラー・ロビンソン容疑者の犯行動機については捜査中だが、同州のコックス知事は同容疑者が「明らかに左派イデオロギーを持っている」と指摘した。極端な思想が犯行に影響を与えた可能性も含め、徹底的に捜査すべきだ。
トランプ氏当選に寄与
カーク氏は18歳で保守系団体「ターニング・ポイントUSA」を創設。銃の権利擁護や妊娠中絶反対、伝統的な家庭を重視するなど明確な保守思想を持つ一方で、異なる政治的立場の学生たちとも真正面から向き合い、対話を積極的に行った。
米社会の分断が進む中、言論の力でそれを乗り越えようという試みだ。カーク氏はかつて「重要なのは、意見の違いを敬意をもって受け止めることだ。人々が対話をやめたとき、暴力が起こるからだ」と語った。
昨年の大統領選では、従来リベラル寄りだった若者のうち一定割合がトランプ氏支持にシフトした。これにはカーク氏が率いる運動も大きく寄与し、若年層を動かしたとみられる。
一方、左派の一部が同氏を「ファシスト」呼ばわりするなど、不当なレッテル貼りが繰り返されてきた。こうした表現が憎悪を煽り、今回の犯行を促した可能性は否定できない。
トランプ大統領は10日夜のホワイトハウスでの演説で、こうした左派による言説について「今日米国で見られるテロリズムに直接の責任があり、今すぐやめるべきだ」と指摘。自身に対する2度にわたる殺人未遂事件や共和党議員に対する銃撃事件などを挙げたが、6月にミネソタ州議会議員とその夫が殺害された事件など、民主党側への暴力については言及しなかった。
政治的暴力は、左派と右派を問わず起きている問題であり、トランプ氏は両方に言及すべきだった。
一方で、左派の側に政治的暴力を容認する傾向が強まっていることが懸念される。今年4月のネットワーク伝染研究所の報告書によると、中道左派を自認する人の55%がトランプ氏の暗殺を「少なくともある程度正当化できる」とし、実業家イーロン・マスク氏に対しては48%が同様の回答をした。
問題の根深さを浮き彫りにしたのが、大学教授や教職員、医療関係者からカーク氏の殺害を称賛するようなSNSへの投稿が相次いだことだ。日本でも、安倍晋三元首相の暗殺事件後、法政大教授がそれを肯定する発言をしていたことが明らかになったが、政治的暗殺を肯定する風潮が蔓延(まんえん)することは、新たな政治的暴力を煽(あお)りかねない。
米国ではこうした関係者の一部は既に雇用者によって解雇されているが、当然の対応だ。
政治的対立の激化避けよ
今回の事件を契機に、これ以上の政治的対立の激化は断じて避けねばならない。暴力を扇動しかねない過激な言説を慎み、異なる意見にも真摯(しんし)に耳を傾ける対話の精神によって、健全な民主主義を維持すべきだ。






