
日米両政府が署名した5500億㌦(約80兆円)の対米投資に関する覚書では、造船分野が対象の一つとなっている。米国の造船業が衰退する中、その再生に向けて日本が協力することで合意した。
かつて世界首位のシェアを誇った日本の造船業も、米国と同様に活気を失っている。四方を海に囲まれた日本にとって造船業は重要であり、対米投資決定を機に復活を図るべきだ。
経済安保を支える役割
自民党は6月、「造船業が滅べば国も滅ぶ」として、再生への緊急提言を政府に提出した。生産能力拡大や人材確保に向け、今秋をめどに具体的な施策や官民の投資規模を盛り込んだ工程表を策定するよう求めるものだ。日本は貿易量の99%以上を海上輸送に依存しており、造船業は経済安全保障を支える上で大きな役割を担っている。
日本は1950年代後半以降、新造船建造量で世界首位を維持してきた。しかし90年代以降は巨額の政府支援を受けた中韓勢の台頭によって急速にシェアを奪われ、造船業を営んでいた総合重工メーカーは他社との再編や事業売却を進めた。
現在は人手不足や物価高などが影響して建造量は減少傾向にあり、シェアは足元で10%強にとどまる。今回の対米投資決定を国内造船業の復活に向けた弾みともしたい。
競争力の強化に向けて鍵となるのは、脱炭素に対応した次世代船の開発だ。海事分野のルールを定める国際海事機関(IMO)は「2050年ごろまでに国際海運からの温室効果ガスの排出ゼロ」という目標を掲げている。今後はアンモニアや水素を燃料とする次世代船の需要が増えるとみられており、アンモニア用の燃料タンクの技術などで優位に立つ日本にとっては大きなチャンスだ。
また北極圏などで使われる砕氷船は、船の強度を高める特殊な技術で日本が強みを持っている。海氷融解が進む北極では、中国やロシアが進出を強めている。北極海で法の支配に基づく海洋秩序を維持するためにも、この分野での日米連携は重要だと言えよう。
再編による企業の大規模化も大きな課題だ。国内造船最大手の今治造船は今年6月、世界シェア拡大のため業界2位のジャパンマリンユナイテッドを子会社化すると発表した。再編を進めるには、企業によって異なる設計や建造の仕方を共通化する仕組みも構築する必要がある。地方では造船業が地域経済や雇用を支えているケースもあり、復活を地方創生につなげることも求められる。
戦略的な支援強化を
造船能力を高める中国は、海軍力の強化を加速させている。3隻目の空母「福建」は今月中にも就役するとの見方が有力であり、正式な就役前に台湾海峡を通過するなどの活動も展開している。
トランプ米政権が造船分野で日本に協力を求めたのは、米国の造船業を立て直し、強引な海洋進出を続ける中国に対抗する狙いがある。日本政府は米国と連携するとともに戦略的な観点に基づいて国内造船業への支援を強化すべきだ。






