
石破茂首相がようやく退陣を表明した。あまりにも遅過ぎた進退判断だった。昨年の衆院選に続き、今年7月の参院選でも与党過半数割れを招いたにもかかわらず、続投の意思を変えず自民党内の対立の度は深まるばかりだった。今後、総裁選で新たな総裁が誕生するが、解党的出直しをしつつ連立政権の枠組みを拡大できるのかが焦点だ。
場当たり的政権運営
石破首相は記者会見で「米国の関税措置に関する交渉に一つの区切りがついた今こそが、しかるべきタイミングだと考え、後進に道を譲る決断をした」と語った。しかし、トランプ米大統領が追加関税を引き下げる大統領令に署名した今月5日には「日米関係の黄金時代を共に築いていきたい」とトランプ氏に親書を送り、訪日を招請したことを明らかにしていた。
続投を断念した直接の動機は、記者会見の翌日の8日に総裁選前倒しの是非を決定しなければならず、実施となれば、党内に決定的な分断を生みかねないとの判断があったからだろう。首相は「前倒し決定と同時に衆院解散・総選挙に打って出る」との強行突破策も検討した。ただ、菅義偉副総裁と小泉進次郎農林水産相に6日に会い、党内融和を優先する思いに傾いた。
首相自身が「石破らしさを失ってしまった」と述べたように、昨年10月1日に発足し約1年で幕を下ろすことになった石破政権には、長期的な国家ビジョンがなく、憲法改正の意欲を欠き、看板の地方創生でも具体策に乏しかった。対米関税交渉や物価高対策、ガソリン税暫定税率や企業・団体献金の見直しなど目の前の対応に精一杯だった。
しかも少数与党であるため、野党に対して妥協を繰り返し、政権運営は場当たり的となり、「自民党らしさ」は埋没してしまった。政権の存在意義を疑われても仕方ない体たらくだった。これでは、岸田文雄前政権の時から崩壊し始めた保守岩盤層を再構築することは不可能だ。その結果が、先の国政選挙での大敗に表れたのである。
政治の空白は避けねばならない。そのため自民党は、総裁選を可能な限り早期に行い、新総裁を選出する必要がある。そのリーダーには、保守層を再結集できる政治理念と哲学を兼ね備え、トランプ氏ら国際的な指導者の前で存在感を発揮できる資質が求められる。
党を再生し選挙に勝てる力量も不可欠だ。自民党は参院選を総括し、「党を一から作り直す覚悟で解党的出直しに取り組む」ことを明記した報告書を作成した。「一から作り直す」原点とはどこなのか。1955年の結党の原点に戻り「党の使命」を再確認しなければ解党的出直しはできまい。
自民らしさの骨格を
LGBT理解増進法制定に力を入れ、選択的夫婦別姓の導入に明確に反対せず、憲法改正に取り組まない自民党と立憲民主党との違いが分からなくなってきたとの声が増えている。新総裁が選ばれても、首相指名選挙で指名される保証はない。政権維持のため連立の枠の拡大に着手せざるを得ないが、まずは自民党らしさの骨格を定めることが肝要だ。





