トップオピニオン社説広陵甲子園辞退 暴行を軽視していないか【社説】

広陵甲子園辞退 暴行を軽視していないか【社説】

記者会見する広陵の堀正和校長(左)=10日、兵庫県西宮市

第107回全国高校野球選手権大会で1回戦を突破した広陵(広島)が出場を辞退した。1月に発生した部員間の暴行事案などを巡ってSNSで誹謗(ひぼう)中傷が拡散されるなどの騒動となっていた。

誹謗中傷は許されないが、広陵の暴行事案への対応にも問題があったことは否めない。

告発がSNSで拡散

広陵は選手権出場が26度目、春の選抜大会は3度の優勝を誇る強豪だ。その広陵で今年1月、寮で禁じられているカップラーメンを食べた1年生部員(当時)1人に対し、2年生部員(同)4人が個別に暴力をふるう事案が発生した。

これによって3月に日本高野連から厳重注意と加害生徒の1カ月間の対外試合出場停止処分を受けた。だが公表はされず、今大会開幕前に被害生徒の保護者とされる人物がSNSで告発して拡散した。

この事案は処分済みのため、広陵は大会出場を決め、1回戦に勝利。ただ1月の事案とは別に、元部員が監督とコーチ、一部の部員から過去に暴力や暴言を受けたとする情報がSNSで広がっている。広陵は6月に第三者委員会を設置し、調査しているという。

広陵の堀正和校長は記者会見で、SNSでの選手らへの誹謗中傷のほか、寮の爆破予告や生徒が不審者に追い回されるなどの被害があったことを踏まえて「生徒、教職員らの人命を守ることが最優先。辞退に踏み切ることを決意した」と述べた。不祥事による大会途中の辞退は初めてとなる。このような事態となったことは残念だ。SNSによる人権侵害は断じて容認できない。

一方、広陵の側にも問題があったと言わざるを得ない。1月の事案における被害生徒は転校し、7月には警察に被害届が出されている。被害生徒が加害生徒への処分の内容に納得せず、深く傷ついていることは明らかだ。堀校長の会見では、こうした点への言及が不十分だったと言えよう。いくら処分済みとはいえ、被害生徒の気持ちにしっかりと寄り添わず、暴行事案を軽視していると受け取られても仕方があるまい。

高校野球もスポーツである以上、勝利を目指して監督が部員を厳しく指導するのは当然だ。しかし厳しさの中で暴力や暴言、あるいは先輩による後輩へのいじめなどが生じてはならない。プロ、アマチュアを問わず、スポーツ界ではこれまでも暴力による問題が繰り返されてきた。暴力はれっきとした犯罪であることをスポーツの指導者は改めて心に刻むべきだ。

球児の健全な心身育てよ

高校野球は100年以上の伝統があり、人気も高い。球児の健全な心と体を育てるため、高野連を中心に各校の野球部は暴力防止を徹底してほしい。

6月に成立した改正スポーツ基本法は、暴力や性的言動、インターネット上の誹謗中傷などでスポーツを巡る環境が害されないよう、国と地方自治体が「必要な措置を講じなければならない」と規定している。スポーツ界の抱える課題克服のためには、国による環境整備も求められよう。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »