トップオピニオン社説防衛白書 懸念事項増大に不安な対処【社説】

防衛白書 懸念事項増大に不安な対処【社説】

防衛省は2025年版防衛白書を公表した。著しい軍拡を遂げた中国に加え、ロシアのウクライナ侵攻に加勢する北朝鮮がロシアからの軍事技術の移転や軍事支援を受けている可能性を指摘し、わが国や地域の安全保障にとって「深刻に憂慮すべき」と指摘した。一方、これに対処する同盟国米国の安保動向や国防に当たる自衛隊員の募集難は不安を残す。

国際秩序に挑戦する中露

白書の巻頭で中谷元防衛相は「国際社会は戦後最大の試練の時を迎えている」と警鐘を鳴らした。これを説明する「概観」では、名指ししていないがロシア、中国など「普遍的価値やそれに基づく政治・経済体制を共有しない国家が勢力を拡大」し、既存の国際秩序に対する挑戦をしていると批判した。

ほかに、各国のゲームチェンジャーとなる先端技術開発、サイバー領域のリスクや情報戦、領域を巡るグレーゾーン事態が恒常的に生起し軍事非軍事を組み合わせたハイブリッド戦が洗練された形で実施される可能性――などを指摘。これらは日本が位置するインド太平洋地域で特に際立つとして、将来ウクライナ侵攻のような事態があり得ると述べている。

この場合、やはり中国の台湾侵攻が想定されるだろう。グレーゾーン事態は既に南シナ海や東シナ海でフィリピンや日本との間で起きている。白書は中国海警局が台湾有事の際に海域封鎖に動く可能性に触れたが、わが国の尖閣諸島の沖合にも出没する海警船は文字通り尖兵(せんぺい)とみるべきである。

また、中国は太平洋で空母艦載機の発着艦を繰り返し、「より遠方での作戦能力の向上」を果たしている。活発な中国の軍事活動に白書は、昨年に続き「国際社会の深刻な懸念事項」と表記。また北朝鮮もロシアと実質的な軍事同盟関係を構築したことから、極超音速ミサイル開発、旧式装備の近代化が進むとみられ、「長期的にはインド太平洋地域の軍事バランスに影響を与える可能性も否定されない」と分析した。

わが国は冷戦時代から日米安保条約により旧ソ連の軍事的脅威を抑止し、今日のロシア、中国、北朝鮮の脅威にも抑止力を働かせてきた。しかし、今後、米国は次世代ミサイル防衛計画「ゴールデンドーム」開発を進める一方、欧州や太平洋地域での前方展開戦略を見直していく可能性がある。白書は「米国の安保分野における動向は、インド太平洋地域の安保環境に大きく影響する」と述べるが、既に米国は北大西洋条約機構(NATO)の同盟国に国防費増額を要求しており、わが国も自国防衛力の増強は避けられない。

自衛隊員確保の努力を

一方、少子化による人不足は自衛隊を直撃する問題だ。民間と違って外国人労働者で補うわけにはいかない。24年版白書は4部構成だったが、25年版は隊員の処遇改善の記述に重点を置いて5部構成となった。

巻頭特集では処遇改善を写真、図表を多用して説明し、若者への就職案内を兼ねている。充足率は9割に留(とど)まり中途退職も多いことから、隊員確保の努力を期待したい。

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