米国内での乱用が深刻な社会問題となっている合成薬物フェンタニルの密輸を巡り、中国の関与が浮上し、米中対立激化の要因になっている。トランプ米政権は、中国が米国を弱体化させる非対称兵器として使っているとの見方を強める一方、日本にも密輸の中継拠点が存在する疑いが報じられ衝撃を与えた。
日本に中継地存在の疑い
違法薬物は人の心と体をむしばみ命まで奪う。その密輸ネットワークを消滅させることは国際的な課題だ。また、国内に入り込ませない水際対策は乱用防止の要でもある。日本の麻薬取り締まり当局は米国と協力し税関検査を強化するなど、あらゆる対策を講じる必要がある。日本に中国産原料を密輸する中継地が存在することが明らかになった場合は、中国政府に強く抗議すべきだ。共産主義国家で政府の目を逃れ薬物の密輸組織が活動することは考えられない。
鎮痛作用のあるフェンタニルは天然のケシから抽出されるオピオイドを基に化学的に合成される薬物で、麻酔や鎮痛剤として使われている。オピオイド系ではヘロインやモルヒネが知られているが、フェンタニルの鎮痛作用は前者の50倍、後者の100倍と言われるほど強力だ。
その分、副作用が強い。依存性が高く、2㍉㌘で致死量になる。米国では2000年代から命を落とす人が相次ぎ、今では過剰摂取で年間数万人が亡くなる。特に、若者層の乱用が蔓延(まんえん)し死因の1位になっている。
トランプ政権は、中国産原料がメキシコやカナダに密輸され、そこで合成されたフェンタニルが米国に持ち込まれているとみて抗議してきたが、状況は依然として深刻だ。中国や両国への高関税は、対策を講じないことへの不満の表れでもある。
中国からの密輸の中継地が日本国内に存在する疑いは日本経済新聞(6月26日付)が報じた。グラス駐日米大使はX(旧ツイッター)で「中国共産党はこの危機を意図的にあおっている。中国からのフェンタニルやその前駆体化学物質の密輸には中国共産党が関与しており、それを阻止するには国際的な取り組みが不可欠」と訴えている。
この指摘は重要だ。中国がフェンタニルを「超限戦」における非対称兵器として用いていることを示唆しているからだ。超限戦とは、武力攻撃だけでなく、あらゆる手段を用いた攻撃のことで、非対称兵器は軍事的に劣勢な側が敵の弱点を突くために使う兵器のこと。世界の覇権を狙う中国共産党が、個人の自由を重んじる米国の弱点は薬物乱用にあると狙いを定めているとすれば、日本もこの問題に腰を据えてかかる必要がある。
違法薬物根絶への決意を
国内へのフェンタニル密輸は今のところ確認されていない。違法使用は医療従事者によるものなど数件にとどまっている。しかし、家族や地域社会における人と人の絆が弱まり、孤独感を強める若者が増えている。わが国も自由社会の弱点が顕在化し、フェンタニルのような危険な薬物でもいったん密輸されれば蔓延する社会的な素地ができつつある。政府はもちろん、国民にも違法薬物乱用を根絶するとの強い決意が求められている。





