
安倍晋三元首相が、凶弾に倒れ非業の死を遂げ3年になる。内外情勢が混迷する中、その喪失の大きさがますます顕著になっている。事件の意味を改めて問うとともに安倍氏の政治的な遺産(レガシー)と志を思い起こすべきだ。
岩盤保守層の自民離れ
安倍氏の最大の遺産は、「自由で開かれたインド太平洋」構想、クアッド(日米豪印戦略対話)という、日本が主導する、自由を守るための新しい国際政治の枠組みをつくったことだ。いま、日本を含む世界各国はトランプ米大統領の関税攻勢にいかに対処するか苦慮している。世界の指導者の中でトランプ氏の信頼を最も勝ち得ていた安倍氏の不在が、世界的な損失であることは明らかだ。政治家は安倍氏の外交に学び、同じようなスケール観でトランプ氏と交渉していく必要がある。
「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍氏は、憲法改正を見据えた国民投票法、安保法制などさまざまな保守的重要施策を進めてきた。一方で中道的な政策も少なくなかったが、根底に確かな国家観があった。時には妥協があってもしっかりした軸があった。それが憲政史上最長の安定政権を支えた。
安倍氏が暗殺され、日本は確固とした精神的な支柱を持ちかつ現実に対処する器量を備えた政治家を失った。自民党の保守主義は骨抜きとなり、岩盤保守層の自民離れが起きつつある。一方で保守層の不満を受け止める参政党や日本保守党が国会に議席を持つようになったが、保守小党の乱立の感は否めない。
保守的な世論は強まり、安倍氏の志を継承してほしいと望む声は小さくない。問題はその結集軸となる政治家の不在だ。
参院選遊説中の元首相を銃撃した山上徹也被告を当初、政治家やメディアは「民主主義に対する重大な挑戦」と厳しく批判した。しかし、その動機が母親が入信していた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みという情報が流れるや、メディアの報道は山上被告に同情的なものとなった。矛先は教団に向かい、自民党政治家と教団との関係が槍玉に挙がった。
こうした中で政府は教団の解散命令を請求。司法がその是非を審理するに至っている。有力政治家を暗殺することで社会に影響を与え、教団への恨みを晴らそうとしたテロリストの狙い通りに動いている。これは民主主義への挑戦どころか、民主社会の乗っ取りである。
事件の真相を究明せよ
警察は山上被告の単独犯の線で捜査を進めた。初公判は10月28日に開かれるが、事実関係は争われず、被告の境遇など情状面を踏まえた刑の重さが争点になると伝えられる。
しかし、事件発生当初から単独犯行を疑う声は絶えない。安倍氏の救命治療に当たった奈良県立医科大学付属病院の福島英賢医師の所見と奈良県警の司法解剖の報告が大きく異なること、致命弾が見つかっていないことなど「陰謀論」の一言で済ませることのできない極めて合理的な疑問である。事件が社会に与えた影響の大きさを考え、その背後関係、真相を改めて究明すべきである。





