トップオピニオン社説大地震防災計画 国は十分な自治体支援を【社説】

大地震防災計画 国は十分な自治体支援を【社説】

政府が南海トラフ地震の防災対策を推進するための改定基本計画を決定し、3月に公表した新たな被害想定で最大約29万8000人と見込んだ死者数を今後10年間でおおむね8割減少させる目標を盛り込んだ。

計画の実効性を高めるには、対策に取り組む自治体に対し、国が十分な支援を行うべきだ。

個別対策を4倍増に

改定された計画では建築物の全壊焼失棟数に関しても、想定の最大約235万棟からおおむね5割減らすとしている。これまでの計画でも、想定死者数を8割、全壊棟数を5割減らす目標を掲げていたが、死者数は約2割の減少にとどまった。

政府は個別対策を約4倍の205項目に増やし、重要な106項目に関しては達成状況を毎年確認することとした。南海トラフ地震という国難に備えるため、目標実現への取り組みを強化するのは当然だ。

今回の計画では、対策を重点的に実施する「推進地域」で耐震性が不十分な住宅を2035年度までにおおむね解消する。ただ、こうした住宅は都市部では減少してきたが、今後は高齢化や人口減少が進む地域が対象となるため、目標を達成できるかは見通せない。行政が補強工事を行う上で住宅の持ち主の金銭負担を減らせるかが鍵だ。

さらに石破茂首相は推進地域として16市町村を追加指定し、これで茨城から沖縄までの太平洋側を中心に30都府県723市町村となった。これらの市町村は、インフラの耐震化や備蓄の充実などの防災計画を作ることが求められる。対策を進めるには、国や都府県の財政、人材支援が欠かせない。

被害想定で2万6000~5万2000人とされた災害関連死の防止も大きな課題だ。今回の計画では、避難所での生活環境の最低基準を定めた「スフィア基準」を満たす自治体を、30年度までに100%にする目標が打ち出された。この基準では「居住空間は1人当たり最低3・5平方㍍」「飲料水、生活用水合わせて1人当たり1日最低15㍑を確保」「トイレは20人に1基」などの目安が示されている。

昨年1月に発生した能登半島地震では、災害関連死に認定された人が今年7月1日の時点で石川、富山、新潟の3県で390人に上り、直接死の228人の1・7倍となっている。震災で生き残った人が、その後の避難生活で命を失うようなことがあってはならない。この課題を巡っても、国、都府県、市町村は連携を深め、対策を強化する必要がある。

参院選でも活発な議論を

政府は、石破首相の肝煎り政策でもある「防災庁」の26年度中の創設を目指している。事前防災から復旧・復興までを一元的に担うもので、念頭にあるのは7000人超の職員を抱える米国の連邦緊急事態管理庁(FEMA)だ。政府はまず、内閣府防災部門の定員を大幅に増やし、47都道府県ごとに担当者を配置するなどの取り組みを進めている。

日本は自然災害が多く、南海トラフ地震も近い将来発生する可能性が高いとされている。参院選でも防災対策について活発に議論してほしい。

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