米政権が4月に相互関税と自動車への25%の追加関税を発動して以降初の日銀の6月全国企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業で景況感がわずかだが改善するという意外な結果だった。
だが、懸案の日米関税交渉は難航し、相互関税上乗せ分の適用停止期限の9日を前に、トランプ米大統領が対日関税の大幅引き上げを示唆するなど日本への不満を強めている。米国の高関税への備えが問われる予断を許さない事態になっている。
全産業で先行き悪化
6月日銀短観は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス13と、3月の前回調査から1㌽改善という予想外の結果だった。
コスト上昇分の価格転嫁が進み、好調な企業収益が改善に寄与。トランプ政権による高関税政策の下押し影響は一部の輸出業種に限られ、大企業製造業でDIが悪化したのは16業種中、自動車や金属製品など4業種のみだった。
その自動車も悪化幅は5㌽にとどまった。大手各社は関税引き上げを見越して輸出を前倒しするなどし、米国での大幅値上げには踏み切っておらず、5月の対米輸出も台数では3・9%減だった(財務省貿易統計)。関税コストをある程度吸収して販売減少が最小限に抑えられており、日銀も影響はまだ本格化していないとみる。
それにもかかわらず、大企業非製造業は2期ぶり、中小企業製造業は5期ぶり、中小企業非製造業は4期ぶりに、それぞれ景況感を悪化させた。
高水準の景況感が続く大企業非製造業は、プラス34(前期35)と小幅ながら悪化。物価高による消費減少への懸念、とりわけ、これまで個人消費を牽引してきたインバウンド(訪日客)消費の下振れにより小売りや宿泊・飲食サービスが振るわなくなってきている。
先行きについては、全産業で景況感が悪化。米高関税による影響への懸念から大企業製造業が1㌽、大企業非製造業は7㌽、中小企業製造業、中小企業非製造業もそれぞれ3㌽、6㌽とDIを落とす。
米関税の影響が本格化していない中でこの状況である。特に大企業製造業の自動車では、関税がこのまま据え置かれれば、「各社とも耐えられなくなる」との声も聞かれる。
ここへきて、米関税は据え置きどころか、さらに大幅引き上げの懸念が出てきた。日米関税交渉が長引く中、相互関税上乗せ分の適用停止期限を前に、トランプ大統領が日本への不満を強め、「30%か35%」と対日関税の大幅引き上げを示唆し、対日自動車貿易を「不均衡」と批判しているからだ。
企業向け支援策の充実を
トランプ大統領の発言は、カナダに対し、一方的に貿易交渉の打ち切りを宣言し、対立の火種だったカナダのデジタル課税の撤回を引き出したように、一種の交渉戦術との見方もできるが、いずれにしても日本側の大幅譲歩は必至の情勢だ。
政府には交渉戦術見直しを含め、高関税の影響本格化に対応した備えとして、企業向け支援策の一段の充実が求められる