トップオピニオン社説安倍氏暗殺公判決定 真相に迫らぬ裁判は欺瞞だ【社説】

安倍氏暗殺公判決定 真相に迫らぬ裁判は欺瞞だ【社説】

安倍晋三元首相

安倍晋三元首相の暗殺事件で殺人や銃刀法違反などの罪に問われている山上徹也被告の裁判の初公判が、10月28日に開かれることに決まった。裁判は事件を山上被告の単独の犯行として審理しようとしているが、真相究明の放棄は欺瞞(ぎまん)でしかない。

単独犯説への疑問も

山上被告は2022年7月8日、選挙遊説中の安倍氏を手製銃で襲い逮捕・起訴された。裁判員裁判へ向けて、裁判所と検察、弁護士の3者で証拠や争点を絞り込む「公判前整理手続き」がこれまでに7回行われた。

報道によると、基本的な事実関係について検察と弁護団の間には争いがなく、被告の境遇など情状面を踏まえた刑の重さなどが争点になる。予想されたこととはいえ、真相の究明を放棄し、事件の本質を見ようとしない司法の姿勢に強い危惧を覚える。法と正義の番人としての信頼を大きく損ねるものだ。

山上被告は、安倍氏に直接的な恨みがあったわけではない。しかし社会的に重要な位置にある元首相の命を奪うことで世論を動かそうとした。しかも民主主義の根幹にある選挙運動の場でそれを行った。社会に与えた悪影響は甚大である。

銃刀法違反については、手製銃が「拳銃等」に当たるか、最高で無期懲役もある「発射罪」に問えるかなどが争われるという。ただインターネット等を参考に手製の銃を作り襲撃したこと自体、社会に脅威を与えた。23年4月には、当時の岸田文雄首相に手製の爆発物を投げ込んだ模倣犯も出た。こうした事態の深刻さこそ、量刑を決める上で争点とすべきである。

事件発生から間もなく、奈良県警が山上被告の犯行動機について、母親が入信していた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に恨みがあり、同教団と関係がある安倍氏を狙ったとの情報をリークした。これによって民主主義を脅かすテロ事件の側面は忘れられ、被告の境遇や教団と自民党との関係にメディアの報道が集中した。一方、奈良県警は山上被告の単独犯行の線で捜査し、早々と立件を決めた。

だが、山上被告の単独犯説には数々の疑問が呈されている。まず安倍氏の救急治療に当たった奈良県立医大付属病院の福島英賢医師と、その後に司法解剖を行った奈良県警の所見が大きく食い違っている。福島医師は安倍氏の心臓に大きな損傷があったと報告したのに対し、奈良県警は「左右鎖骨下動脈の損傷による失血死」と発表した。

真相究明の委員会設置を

さらに警察庁幹部が参院議員の青山繁晴氏に明かしたところによると、致命弾は見つかっていない。このほかにもさまざまな不審点が浮かび上がっており、それらは山上被告の単独犯説を疑わせるものだ。これらの疑問に対してメディアも「陰謀論」の一言で片付け、追及しようとしない。

こういう状況自体が異常なことだ。米国のケネディ大統領暗殺事件では、後継のジョンソン大統領が連邦最高裁長官を委員長にしたウォーレン委員会を設置し調査を行った。安倍氏の事件についても、今からでも自民党、さらには国会で真相究明のための委員会を設置すべきだ。

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