トップオピニオン社説イラン攻撃 報復の連鎖抑制へ自制を【社説】

イラン攻撃 報復の連鎖抑制へ自制を【社説】

イスラエルがイランへの軍事攻撃に踏み切った。核兵器の開発阻止のためだが、中東地域の不安定化につながらないよう慎重な対応が必要だ。

核兵器開発阻止が目標

イスラエルによるイラン空爆は昨年から3回目。昨年の2回の攻撃では、戦闘機、早期警戒機などが参加した緻密な作戦の下、ミサイル製造施設の破壊など効果を挙げたとされている。イランは弾道ミサイル、巡航ミサイル、攻撃型ドローン数百機で攻撃したが、ほとんどが迎撃され、イスラエルの被害は軽微だった。イランは数千発のミサイルを保有しているとみられ、応酬が激化すれば周辺地域を巻き込む事態をも招きかねない。

昨年の攻撃で核施設は標的とならなかったとされているが、今回の攻撃についてイスラエルは、核兵器開発の阻止を明確な目標にしている。イラン中部ナタンズの核施設が攻撃を受け、核科学者らが空爆によって殺害されたという。さらに、精鋭軍事組織「革命防衛隊」のサラミ司令官、軍トップのバゲリ参謀総長、外交政策を統括する最高安全保障委員会のシャムハニ元事務局長ら、軍・政府の最高幹部の死亡も伝えられている。

イスラエルからの情報によると、イランはイスラエル周辺国からの攻撃を計画。イランの支援を受けるイスラム組織ハマスが2023年10月にイスラエルを急襲し、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザでイスラエルの掃討作戦が進行中だ。

イスラエル北部では、イラン系のシーア派武装組織ヒズボラがハマスと連携しイスラエルを攻撃してきたが、最高幹部の殺害などで弱体化が伝えられている。またシリアは、アサド政権の崩壊で親西側の暫定政権が樹立されるなど、イランの影響力は失われた。現在のイスラエル周辺の情勢がイランにとって不利なのは明らかだ。

一方、トランプ米政権はイランとの核合意を目指して交渉を重ねてきた。トランプ大統領は「合意は近い」として、イスラエルにイラン攻撃をしないよう求めていたが、攻撃が実行されたことで交渉が頓挫するのは必至だ。イスラエルにとってイランの核武装は「国家の存亡にかかわる危機」(イスラエル軍報道官)であり、合意によるイランの核保有阻止は難しいと判断したということだ。

イランは15年に当時のオバマ米政権との間で核合意を交わし、核開発の大幅な制限を受け入れた。18年にトランプ氏が合意を離脱、これに反発したイランがウラン濃縮を進めた。現在、濃縮率60%のウランを400㌔超保有し、核爆弾9個が製造可能な量とされている。

イスラエルに危機感

イスラエルのネタニヤフ首相は攻撃に際し、イランは何万発ものミサイル製造の準備をし、数カ月で核兵器保有可能と危機感を表明した。「イスラエルの破壊」を国是としてきたイランの核武装は、イスラエルにとっては悪夢だ。ネタニヤフ氏は、攻撃は何日も続くとしている。イラン側も報復を明確にしており、既に多数のドローンがイスラエルを攻撃している。報復の連鎖は避けねばならない。双方の自制が必要だ。

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