昨年届け出のあった認知症の行方不明者のうち、亡くなった491人の8割が失踪場所から5㌔以内で発見されていることが警察庁の分析で明らかとなった。迅速な通報・捜索が悲劇の発生を防ぐ鍵だ。
近距離で多い死亡事例
警察庁の発表によると、昨年の認知症の行方不明者の数は1万8121人。前年より918人減ったが依然として高い水準で、統計を始めた2012年から2倍近くとなっている。
年齢別に見ると、80代以上が1万1152人で6割以上を占め、70代6054人、60代777人などとなっている。都道府県別では大阪2086人、神奈川1907人、埼玉1812人と都市およびその周辺に多い傾向が出ている。
今回初めて行われた遺体の発見場所の調査によると、自宅など行方が分からなくなった場所から1㌔以内が235人、1~5㌔が147人、50㌔を超える場所が15人だった。発見場所は、河川・河川敷が115人、用水路・側溝が79人、山林71人だった。おぼれたり転落したりする事故が死亡原因とみられる。
警察庁は行方不明となった場所からそれほど遠くない場所での死亡事例が多いことから「行方が分からなくなってから迅速に捜すことが重要だ」としている。実際に行方不明者が地域の人に発見されるケースも少なくない。地域で情報を共有し、普段から家族と地域、自治体が連携して見守る態勢をつくることが重要になっている。
位置情報を取得できる全地球測位システム(GPS)機能を利用することで、111人が早期に発見・保護されている。また、ドローンによる捜索も実施され、不明者8人を発見し、うち4人が生存していた。身近となった先端技術を活用するためにも迅速な行動が鍵となる。
22年のデータでは日本の認知症患者数は約443万人で高齢者の約12%に当たり、40年には高齢者の15%、6・7人に1人がなるとの推計もある。徘徊(はいかい)などで行方不明となるのは、日常生活は自律的に行える軽度の認知症患者に多い傾向がある。
24年1月に「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができる」ようにと認知症基本法が施行された。行方不明になった人を早期に発見するため、身体的な特徴などを事前に登録し、情報を警察や支援センターが共有する「SOSネットワーク」が各自治体で設けられた。これを充実させていく必要がある。
地域一体の見守りが重要
日頃から地域の人が気に掛けることが、早期の発見、未然の防止につながる。都市部とその近郊に死亡者が多く出ているのも、地域のコミュニティーの脆弱(ぜいじゃく)さによるものと考えられる。特に都市部での独り暮らしの高齢者で近所付き合いも希薄な場合は、行方不明となっていること自体が分からないケースも少なくないと思われる。
これから夏にかけては、脱水症状になりやすい高齢者が水辺に近づくケースが増え、行方不明者の事故が増える可能性が高まると専門家は指摘する。家族、地域一体の見守りが一層重要になってくる。