
厚生労働省が発表した2024年の日本人の人口動態統計によると、同年の出生数は68万6061人で70万人を割った。合計特殊出生率も1・15と過去最低を更新しており、この推移では20年以内に人口が1億人を切り、700年近く経(た)つと日本人がいなくなる。少子化、人口減少に歯止めをかけるため政策総動員の対応を求めたい。
深刻な負のスパイラル
政府が少子化に向き合ったのは、1989年の出生率1・57からだ。それまでは66年の1・58が戦後最低だったが、女の子が嫁げないほど性格が強くなる干支(えと)と占われる丙午(ひのえうま)に当たった同年の出産を避ける傾向が当時はあった。しかし89年はこれを下回り、「1・57ショック」と言われた。
政府は94年12月に子育て支援策としてエンゼルプランを打ち出して以来、少子化対策を継続してきたが、一向に効果が表れない。90年代はバブル経済崩壊で日本が長期不況に沈んでいった時代であり、この時期に生まれた世代が現在、結婚・出産の適齢期を迎えているが、深刻な負のスパイラル現象をもたらしている。
就職氷河期当時の若者は、慶事となる就職、結婚、出産に無縁となり、マイホームなど人生設計の夢も描けなくなるケースも多かった。だが、ここ10年余りの経済状況は改善しており、コロナ禍以前まで有効求人倍率は上昇した。また、コロナ禍後の今日も求人倍率は回復している。その中で出生数・出生率が低下していくのは、結婚・出産より仕事で稼ぐことを選択する傾向が強いからだろう。
政府はエンゼルプランから昨年成立した改正子ども・子育て支援法まで少子化対策を行ってきており、これまでの対策がなければ出生数・出生率はさらに低い結果をもたらしていた可能性もある。女性の就業率は高まり、20歳代、30歳代は8割を超えている。女性の社会進出を後押しする男女共同参画社会の実現といった施策は成功したと言える。
これに比べると、出生数増加に向けた政府の声量が小さかったのではないか。
政治家が「産む」と言えば失言扱いするマスコミの問題もあるが、少子化対策の内容が年々充実してきていることについて、十分に結婚・出産の適齢期にある世代の心に届いているのか見直す必要があろう。
企業の協力も欠かせない
政府は来年度をめどに出産費用の自己負担を完全に無償にする方針だ。児童手当も昨年10月より拡大され、対象は高校生年代までになった。また、第3子以降の金額が3万円に増え、所得制限の撤廃などがなされている。教育無償化も少子化克服の一助となるものだ。
このような新たな取り組みは高校、大学、専門学校などの教育現場で教え、若年層に周知させる必要もあろう。また、女性だけでなく男性の育児休業の取得率向上に努めるなど仕事先の協力も欠かせない。こうした企業を少子化対策に貢献していると積極的に評価することも求められる。若者たちが結婚・出産に「損」を感じず、前向きになれるような広報を望みたい。