トップオピニオン社説韓国新大統領 分断解消は簡単ではない【社説】

韓国新大統領 分断解消は簡単ではない【社説】

4日、ソウルの韓国国会で、大統領就任式に臨む李在明氏(EPA時事)【編注】李在明(イ・ジェミョン)

韓国大統領選挙が行われ、左派系政党「共に民主党」候補の李在明前代表が当選し、就任式を経て早速、大統領職に就いた。昨年12月の尹錫悦前大統領による非常戒厳発令から、弾劾、罷免、大統領選挙と目まぐるしい半年を経て、3年ぶりの左派政権への交代となった。

複数の訴訟抱える李氏

この間、韓国内では保守と左派に分裂し、国民の間で分断が深まった。新大統領にとって弾劾事態の収拾と国民の癒やし、そして国民統合と経済立て直しが当面の最大課題となる。

李氏は選挙中「政治報復は決してしない」としつつも「内乱勢力の罪は断固として処罰する」と語っていた。「内乱」かどうかは議論の余地があり、「断罪」が「報復」と受け取られる素地は十分にある。癒やしも分断の解消も簡単ではなさそうだ。

李氏は公職選挙法違反など複数の訴訟を抱えている。通常、大統領の不訴追特権は在任中に犯した罪が対象だが、民主党は就任以前の罪の訴追も停止するよう刑事訴訟法改正案を国会に提出している。李氏は疑惑を抱え、裁判を止めたまま大統領職を務めることになる。国会多数党を背後に強大な権力を手中にすることには「怪物独裁」(李洛淵元首相)との批判が出るほどで「選出された独裁者になる」(韓国紙)と保守層は警戒感を緩めていない。

投票率は約80%と、韓国大統領選では1997年以来の高水準となった。戒厳・弾劾事態への評価が問われた選挙に国民の高い関心が反映したものだ。しかし李氏の得票率がわずかだが50%に満たず、事実上の一騎打ちとなった相手側の保守政党「国民の力」候補の金文洙前雇用労働相が約41%を得ており、無視し得ない数だ。「この選挙で誰を支持したかにかかわらず全国民の大統領になる」という李氏の真実性が問われるだろう。

李氏は選挙中のテレビ討論会で日米との安保協力は必要だとしつつも「米国との同盟一辺倒という姿勢を取るべきではなく、中国・ロシア関係のかじ取りは重要だ」との認識を示した。また「実用主義外交」を行うとも述べた。「実用主義」とは「現実主義」のことだ。トランプ米政権の関税政策に日韓で協調して対応すべきだとの声が韓国側にはあるが、李氏の現実主義は日本でなく反対サイドとの連携を選ぶ可能性も否定できない。

対日関係では強い反日言動を行ってきたが、最近は「個人的に、日本に対する愛着がとても深い」と述べたりもしている。だが李氏の支持勢力の中にはかつて文在寅政権で「ノージャパン」を繰り広げた左派学生運動家出身者も多く、李氏の現実主義がどう振れていくか分からない。慎重な見極めが必要だろう。

対日交流進め関係安定を

今年で日韓国交正常化から60年となり、経済では相互に密接な関係が出来上がっている。昨年の日韓の相互往来は1200万人を超え、かつてない質量の交流が行われている。これらを支えるのは若者を中心に偏った歴史教育から自由な日本像を抱く世代だ。政権が代わろうが、こうした流れを止めず、交流を進めていくことが安定した両国関係につながるはずだ。

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