トップオピニオン社説アジア安保会議 米国関与明言の意義は大きい【社説】

アジア安保会議 米国関与明言の意義は大きい【社説】

5月31日、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で演説するヘグセス米国防長官(時事)

アジア太平洋諸国の国防担当閣僚や軍幹部が参加し、この地域の国防・安全保障上の課題を議論する「アジア安全保障会議」がシンガポールで開催された。英国の民間シンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」が主催するもので今年で22回目。会議の合間には個別の会談も行われ、率直な意見交換を重ねる貴重な場となっている。

台湾侵攻を強く牽制

今年はフランスのマクロン大統領が欧州の首脳として初めて基調演説を行い、米中両大国の狭間に位置する欧州とアジアは互いに協力し自立のための連合を築こうと呼び掛けた。マクロン氏の演説は欧州の独自性を強調するものだったが、中露の脅威に対処するため欧州とアジアの諸国が接近、連携を進める動きは今まで以上に強まっていくと予想される。

ヘグセス米国防長官は、中国による台湾の武力統一は「壊滅的な結果を招く」と強く牽制(けんせい)。もし対中抑止に失敗した場合、「米国は断固として戦い、勝利する用意がある」と表明した。

またフィリピンに対する妨害行為や不法な人工島占拠を続ける中国を名指しで非難し、南シナ海での「一方的な現状変更」を試みる行為は「許されない」と警告。さらに「ハイブリッド戦争」や「グレーゾーン戦術」を仕掛ける中国は各国の安全保障上の脅威であるとし、対中抑止への連携と国防費の早急な増額を同盟・友好国に求めた。

第2次トランプ米政権発足後、インド太平洋地域の安全保障に関する構想が明確に語られたのは今回が初めて。中国の脅威が強まる状況の下、米一国主義を唱え、地域紛争への介入に消極的なトランプ大統領の姿勢に同盟各国は懸念と不安を抱いている。そうした中、へグセス氏はインド太平洋地域を「米国の優先地域」であると位置付けるとともに、台湾有事に米軍が介入する意思を示し、米国のコミットメントを明確にさせた。

へグセス氏の演説は、インド太平洋の平和と安定を図る上で大きな意義を持つものだと言える。域内各国もへグセス氏の求めに応え、協力関係を深めて国防力の強化を急ぎ、対中抑止力の向上に取り組む必要がある。

中谷元防衛相は中国を念頭に東南アジア諸国連合(ASEAN)の重要性を強調し、日米豪印などの連携を推進する考えを表明。その上で「多層的な取り組みを強化したい」とし、インド太平洋地域で各国の防衛当局が連携する上での理念として、共通の価値観と利益を共有し合う国々が協力的に取り組むことを示す「OCEAN」を打ち出した。OCEANの概念が各国に受け入れられ、関係強化に資するものとなるかどうか今後の推移を注視したい。

対中抑止の重要性再確認

一方、個別の会談では、日米豪比や日米豪、さらに日米、日豪、日比の防衛相会談が相次いで開かれ、中国の脅威への懸念を表明した。

トランプ政権の高関税政策で混乱と動揺を見せる各国にすり寄り、中国が影響力拡大に動く中、今回のアジア安全保障会議は、対中抑止の重要性と同盟各国の結束連帯を再確認する場になったと言える。

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