
日本産水産物の中国向けの輸出再開で日中が合意した。一定の進展だが、福島など10都県産は除外されたままだ。政府は全面的な禁輸撤廃を強く要求すべきだ。
外交カードとする思惑
2023年8月、東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出をきっかけに中国は日本産水産物の輸入を全面停止してきた。「中国の消費者の健康を守る」ためというものの、国際的に突出した厳しい対応だった。さらに世界で「汚染水リスク」批判を展開した背景には、外交カードとして利用する思惑があった。
しかし国際原子力機関(IAEA)が処理水のモニタリング調査を実施し、国際的な安全基準に合致したものであることを報告。中国の汚染水プロパガンダは広がりを見せず、同調する国はロシアや北朝鮮など一部にとどまった。
とはいえ、輸出停止前の22年の水産物輸出総額で中国は871億円の最大の相手国。特に中国に依存していたホタテやナマコ輸出を中心に大きな打撃を受け、23年のホタテの輸出額は約220億円減った。
そういう中で、日本側は国内での加工や輸出販路の多角化に務めた。中国では日本から輸入したホタテの約4割を加工し米国などに再輸出していたが、それを日本国内での加工に切り替えた。米国やベトナムなどの国や地域へ販路は拡大し、24年は中国抜きで前年を6億円上回る約694億円にまで回復した。
輸出再開について小泉進次郎農林水産相は「大きな節目となる。輸出は一定程度回復していく」と評価する。一方、全国漁業協同組合連合会(全漁連)は禁輸の全面撤廃を強く求めた。
中国外務省の報道官は輸入再開に関して「科学や安全、国内法規や国際貿易のルールに基づき検討する」と表明。しかし処理水の安全性が科学的に証明されているにもかかわらず、10都県を除外したのは、政治・外交カードとして温存しておこうとの思惑があるとみられる。
中国は24年9月、IAEAの枠組みの下で、海水や処理水の試料採取などモニタリング活動に参加。この時、日中両政府で輸入再開の方針で合意していた。今回さらにそれが進展したのは、トランプ米政権が対中強硬策を次々と打ち出す中、日本を少しでも中国側に引き寄せ、日米間に隙間風を吹かせる狙いがあるとみられる。
石破茂首相は中国重視姿勢を示し、就任間もない昨年11月に習近平国家主席と会談。訪中への意欲を示している。今年1月には自民党の森山裕幹事長らが北京で、6年3カ月ぶりに日中与党交流協議会を再開した。
対日融和に警戒緩めるな
中国は先月、沖縄県の尖閣諸島や与那国島周辺のEEZ(排他的経済水域)内のブイを全て撤去し、対日融和の姿勢を示している。水産物の輸入再開も、それが外交カードとして最大限効果を発揮できると考えてのことと思われる。
中国の対日軟化を日本としては利用すべきである。しかし中国の微笑外交は、あくまで日米間に隙間風を吹かすことが第一の目的である。これを念頭に警戒を緩めてはならない。