米国でトランプ政権がハーバード大学の留学生受け入れ資格を剥奪し、政府と結んだ全契約を解除した。同大はこれらの決定の撤回を求めて裁判所に提訴したが、背景には学内で過激主義が横行したことや、留学を通じて中国共産党の影響力が増していることに対する安全保障上の懸念がある。
トランプ政権が厳格措置
多くの卒業生を政財界、法曹界などに輩出している北米8私立大学(アイビーリーグ)の代表格で米国最古のハーバード大には、未来を先導するエリートが世界から集まっている。そこで繰り広げられる政治運動には世論も政治家も敏感だ。
現在の同大と政権の確執は今年1月のトランプ大統領再就任に始まったものではない。発端はイスラム組織ハマスのイスラエル襲撃とイスラエル軍のハマス壊滅を目的としたパレスチナ自治区ガザへの進撃であり、イスラエルとパレスチナとの対立が同大をはじめとする米国の大学内に持ち込まれたことだ。
ガザ攻撃は、2023年10月のハマスによるイスラエル襲撃で、イスラエルの市民らが1400人以上殺害され、240人以上が人質にされたことから始まった。ところが、ハマスの暴挙に触れず、イスラエルだけ非難する運動について、大学がテロを容認する過激な反ユダヤ主義の温床になったという批判を招いた。
特に名門のハーバード大は社会的にも注目され、学内に反ユダヤ主義が蔓延(まんえん)するのを大学当局が黙認したとして批判された。当時のゲイ学長が連邦議会の公聴会に召喚された挙げ句、24年1月に引責辞任している。同大は内部調査を行い、今年4月末に反ユダヤ主義、反イスラム主義が横行しているとする報告書を公表してガーバー学長が謝罪している。
一方、トランプ政権は反ユダヤ主義の大学内での根絶を目指すとして、同大に入試やカリキュラムなどの改革、学内で違法行為、暴力的な活動をした学生の電子記録などの提出を要求し、応じなければ留学生受け入れ資格の剥奪、助成金凍結などの措置を取るとした。これに同大は反発したため、米国土安全保障省は同大の留学生受け入れ資格を剥奪すると発表。また、トランプ政権は各連邦政府機関に同大との全契約を解除する指示を通達した。
さらに国外から大学内に流入する外患を取り締まろうとする動きは拡大しており、米国務省は米国留学希望者の学生ビザ新規予約を一時停止する措置を取った。中国共産党とつながりのある中国人留学生のビザの取り消しも進められている。
優秀な留学生を受け入れないことはマイナスになるとの指摘の一方、特定国からの留学生の増加で外圧が増すことへの懸念も強まっている。台湾を武力で威嚇し、少数民族や民主化運動を弾圧する中国の影響を看過できないということだろう。
自治をはき違えるな
わが国でも過去に共産主義国家を目指す過激主義が大学で広がり、殺人事件を含む数々の暴力が横行した。大学自治や学問の自由をはき違えることなく、適正な学府とすべきである。