
農林水産省は、高騰したコメの価格を引き下げるため、国が価格を決める随意契約を通じ、政府備蓄米30万㌧を競争入札時の半額程度で売り渡すと公表した。早ければ6月初めに5㌔当たり税別2000円程度で店頭に並ぶと見込んでいる。価格の安定につなげてほしい。
小売業者に直接売り渡す
政府は4月までに計約31万㌧分の備蓄米の入札を行ったが、全国のスーパーで5月12~18日に販売されたコメ5㌔当たりの平均価格は前週より17円高い4285円で、集計を始めた2022年3月以降の最高値を更新。前年同時期の約2倍の水準での推移が続いている。
随意契約はこれまでの「価格には関与しない」との方針を転換するものだ。入札と違って集荷業者や卸売業者を経由せず、小売業者に直接売り渡すため、価格に上乗せされる経費や利益を抑えることができる。政府は3月以降に入札を通じて3回放出し、平均落札価格は玄米60㌔当たり2万2477円。今回の平均売り渡し価格は1万1556円で、引き渡し場所までの輸送費も国が負担する。
農水省にコメ政策に関する「集中対応チーム」を発足させた小泉進次郎農水相は「これ以上の価格高騰をさせず、コメ離れを防ぎ、農水省の責任を果たしていく」と表明した。この言葉を実現できるかが問われる。
もっとも、備蓄米が安値で流通しても全体的な米価下落につながるかどうかは見通せない。ブランド米の価格は下がらず「価格の二極化」が進むとの見方もある。一方、生産者からは、肥料や農機具などが高騰しているため、コメの平均価格が2000円台まで下落すると「持続可能な農業ができない」との声も上がっている。今回の措置は「非常事態」でやむを得ないと言えるが、中長期的には抜本的な農政改革が求められよう。
日本では1970年から2018年まで、米価を維持するため政府がコメの生産量を調整する減反政策が進められた。背景には食生活の変化などに伴うコメ余りがあったが、生産性の低下や農家の高齢化、離農などの問題を招く結果となった。
減反廃止後も補助金で麦や大豆への転作を促す実質的な生産調整が続いた。このため、異常気象などで需要に応えられなくなったことが現在のコメの高騰につながっている。
こうした事態を防ぐには、補助金や生産調整を見直し、意欲のあるコメ農家が経営の大規模化や効率化を進めることで安定した生産体制を整えるよう促す必要がある。政府は30年のコメの輸出量を24年比で約8倍に増やす目標を掲げている。輸出強化も念頭に置いたコメ政策を進めるべきだ。
生産体制の改革が課題
昨年5月に成立した改正食料・農業・農村基本法は、基本理念に「食料安全保障の確保」を追加。「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態」を確保する方針を明記した。コメは国内で唯一の自給可能な穀物だ。食料安保の観点からも、生産体制の改革や価格の安定は政府の重要課題だと言えよう。