
北朝鮮による拉致被害者の即時一括帰国を求める「国民大集会」が開かれた。拉致被害者有本恵子さんの父明弘さんが2月に死去したため、被害者の親世代で存命なのは横田めぐみさんの母早紀江さんのみとなった。一日も早く全員を取り戻さなければならない。
「本当に時間がない」
早紀江さんは「(めぐみさんが)こつぜんと姿を消し、泣きながら浜辺を捜し歩いた」と振り返った。めぐみさんが拉致されてから今年で48年になるが、帰国はいまだに実現できていない。あまりにも悲痛である。
めぐみさんの弟で拉致被害者家族連絡会(家族会)代表の拓也さんが「本当に時間がない」と訴えたのは当然だ。集会に出席して「何としても突破口を開く」と決意を表明した石破茂首相は、被害者家族の思いを心に刻む必要がある。
北朝鮮は1970年代から80年代にかけ、対南工作のため、日本旅券の取得や工作員への日本語指導などを目的に多くの日本人を拉致した。87年11月の大韓航空機爆破事件の実行犯である金賢姫元工作員は、拉致被害者の田口八重子さんから日本語を教わったとされる。
無辜(むこ)の日本人を拉致し、韓国に対するテロのために利用したことは断じて容認できない。北朝鮮は2002年9月の日朝首脳会談で拉致を初めて認め、被害者5人とその家族は帰国できたが、残りの被害者12人は安否不明の状態が続いている。このほか、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない「特定失踪者」が約900人に上る。
しかし北朝鮮は、拉致問題を「解決済み」と強弁している。めぐみさんは「死亡した」とする北朝鮮は、04年11月に「遺骨」として別人のものを差し出すなど、帰国を待ち望む家族の気持ちを踏みにじってきた。拉致によって家族を引き裂き、その責任を取ろうともしない北朝鮮に対する憤りを禁じ得ない。
一方、米共和、民主両党の下院議員17人は今年4月、日本人拉致被害者の帰国を「優先する」政策を推し進めるよう求める書簡をトランプ大統領に送った。家族会と拉致議連は同月、米ワシントンでランドー国務副長官と面会し、被害者の早期帰国に向けて「日米の協力と緊密な連携」を要請。今月には被害者家族らがグラス駐日米大使と面会するなど、このところ拉致問題を巡る活発な動きが日米両国で見られる。
防諜体制を強化せよ
トランプ氏は大統領1期目の17年9月、国連総会の演説で「13歳の日本の少女が拉致された」と、めぐみさんを念頭に拉致問題に言及して北朝鮮を批判。被害者家族とも複数回面会している。トランプ政権や米議会の関心の高さは心強い。この問題の解決には、日米が共に北朝鮮への圧力を強めていくことも求められる。
拉致という北朝鮮の国家犯罪が許し難いものであることは確かだが、自国民の被害を防げなかった日本側にも大きな責任がある。
こうした外国の工作活動から国民を守るには、スパイ防止法制定をはじめとする防諜(ぼうちょう)体制の強化が不可欠だ。