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適性評価制度 情報出防ぎ国益確保を【社説】

経済安全保障上の重要情報を指定し、その情報を取り扱える人物を政府が認定する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の導入を盛り込んだ「重要経済安保情報保護・活用法」が施行された。

経済安保情報に関する適性評価は、先進7カ国(G7)で日本が唯一未整備だったが、制度開始で同盟国との重要情報の共有が可能となる。国益の確保につなげる必要がある。

企業のチャンス拡大も

指定する重要情報は、サイバー攻撃対策や重要物資の供給網の脆弱(ぜいじゃく)性などの19項目を想定。資格付与に際しては本人同意を前提に、政府が家族の国籍、本人の犯罪歴、薬物の乱用など7項目を調査し、認められれば重要情報を取り扱うことができるようになる。

閲覧や利用を資格者に限定することで情報流出を防ぐことが狙いだ。情報を漏洩(ろうえい)した場合は5年以下の拘禁刑などの罰則が科される。

初年度の資格保有者は民間人を含め数千人程度になる見通しだ。経済安保分野で適性評価制度が整備された背景には、人工知能(AI)など軍事と民生の両方に利用できる「デュアルユース」と呼ばれる技術の領域が拡大し、情報保全の必要性が国際的に高まったことがある。日本では中国などの産業スパイが暗躍しており、米中の覇権争いが激化する中、経済安保上の重要情報が流出する恐れが強まっていると言える。

2014年12月に施行された特定秘密保護法は、対象を防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野に限定しており、適性評価で調べられているのは政府職員が大半だ。経済安保に関する適性評価が導入されれば、海外との最先端技術の共同研究に参加しやすくなり、企業のビジネスチャンスが拡大することも期待される。

一方、導入後は政府の機密が民間に提供されるようになる。政府は対象企業に、SNSへの投稿などが「外国の諜報(ちょうほう)機関の情報収集の対象となる」として注意を呼び掛けた。企業には情報保全体制の強化や社内教育の充実が求められよう。

ただ、適性評価の導入だけでは十分とは言えない。重要な機密や情報などの流出防止を強化するには、スパイ行為そのものを取り締まるスパイ防止法が不可欠だ。

自民党の治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会(高市早苗会長)は今月の会合で、スパイ防止法の導入検討を含む治安強化に向けた提言を取りまとめた。参院選公約への反映を目指し、近く石破茂首相(党総裁)に提出する考えだ。

スパイ防止法制定を急げ

高市氏は「本気で議論を始めなければならない段階に来ている」と訴えた。多くの議員が危機意識を共有し、参院選のテーマの一つとしてほしい。

日本が「スパイ天国」と呼ばれて久しい。主要国のほとんどはスパイ防止法を制定し、有罪となった場合の最高刑は死刑や無期懲役だ。

外国によるスパイ行為を抑止するため、日本でも法整備や本格的な防諜機関の創設を急ぐ必要がある。

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